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おれに幸あれ。

ORIGINAL LOVE のニューアルバムが、すばらしかった。

買おうと思ったきっかけは、田島貴男さんのツイッターだ。田島さんは本作のことを「僕のキャリア最高作」だと書かれていた。ピチカート時代から数えてもとんでもないキャリアを誇り、酸いも甘いもかみ分けたはずの50代を迎えた田島さんが、堂々と「キャリア最高作」と胸を張れるその事実におどろき、なにはなくとも買ってみた。

聴いたのは週末、犬を後部座席に乗せてドッグランへと向かう、車のなかだった。美しいアコースティックギターによる弾き語りからはじまり、70年代ハードロック、そしてソウル、ファンクと、くるくる表情を変えていく1曲目の「アクロバットたちよ」。思わずボリュームを上げまくり、そこからはもうどっぷりと田島貴男ワールドに酔いしれた。アルバムの途中で目的地に着いてしまうのがもったいなく、回り道してしまったほどだ。もう今年は、この一枚だけでいいかもしれない。

聴きながら惚れぼれするのは、アルバムのなかでひとつとして「理由のない音」が鳴らされていないことだ。ものすごく複雑なアレンジのなされた楽曲ばかりなのに、雰囲気でなんとなく差し込んだ音が一個もなく、ぜんぶが田島さん(および ORIGINAL LOVE)の肉体を通じて鳴らされている。しかもそれが音楽偏差値の高さを誇示するものとしてではなく、「ああ、ほんとうに音楽が大好きなんだなあ」という羨望をいざなう。円熟と若さが混じり合った音に、「おれ、こんなふうにいつまでも音楽に狂っていたかったんだよなあ」と惚れぼれする。


そしてやっぱり50代に突入してからもなお、キャリア最高作を生み出せるという事実に、底知れない勇気をもらうのだ。『bless You!』というアルバムタイトルを、勝手に「きみに幸あれ!」と受け止めて。