ある日曜日のできごと。

日曜日の朝、犬を連れて散歩に出かけた。

午後には雨に包まれたその日の東京は、朝のうちからぐったりと湿り気を帯びていた。いつもの公園の脇を、犬とともに歩く。ちょっとしたジョギングコースにもなっているその公園の周辺は、歩道の幅が広く、木陰もあって、犬と並んで歩くのにちょうどいい。

と、後方から女の子たちの笑い声が聞こえた。自転車に乗った、女子高生たちの笑い声だ。

ぼくと犬は歩道の端に身を寄せ、道を譲った。犬と散歩していると、子どもが「わんわんだ」とよろこんだり、若い女の人が「かわいいー」とほほえんだりしてくれることがある。自転車の女の子たちも、うちの犬をそう思ってくれるかな。ぼくはよくわからない期待をしながら、道を譲った。

制服姿の女の子ふたり組は、ぼくと犬なんかには目もくれないで走り去っていった。たぶん、ほんとうに視界に入ってなかったんだと思う。自転車2台が横並びするには少し狭いかもしれない歩道で、女の子たちは頬を寄せ合うように横並びになって自転車を漕いでいた。


「やばいって、やばいって!」。ひとりの女の子が叫ぶ。

「大丈夫、ほら、もう一回!」。もうひとりがケラケラ笑う。


ぐらぐら揺れながら女の子たちは、スマホで自撮りしながら走っていた。そのディスプレイには、その世界には、彼女たちふたりだけしか映っていない。


「きゃー!」

「ほら、危ない! せーのっ!」


こんな瞬間を彼女たちは、永久に保存できるのかもしれないのか。40歳になり、50歳になり、60歳や70歳になってもそこには、頬を寄せ合いながら危ういバランスで自転車を漕ぐわたしが、ケラケラ笑っているのか。


若い人たちをうらやましく思う機会をほとんど持たないぼくだけど、彼女たちのことだけは、心底うらやましく思った。



そして足元に座る犬を眺めて呼びかける。

「もっとたくさん、写真撮ろうね」


椅子の上にも3円。
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古賀史健