男子一生の夢、それは。

こんなことでもなかったら、思い出しもしなかったよ。

本日、政府からあたらしい日本銀行券のデザインが発表されました。一万円札には渋沢栄一が、五千円札には津田梅子が、そして千円札には北里柴三郎の肖像が、それぞれ採用されるのだそうです。ラインナップもなるほど悪くないし、新紙幣では漢数字の「壱万円」よりアラビア数字の「10000」がおおきく記載されるようだし、外国人にもわかりやすい、いいデザインではないかと思います。

で、そんなニュースを横目に眺めながら思い出したのが、15年近く前につくった日本銀行券関連の企画。けっきょくボツになったのですが、あのころはこんなバカばかり考えていたっけなあ、と懐かしく思ったのでした。えー、本日はその企画について、むかし書いたブログの文章を一部改変しながら転載してお茶を濁しますね。


————以下、2011年のブログより————


ぼくのMacのハードディスクには、「その他ボツネタ」という哀しい名前のフォルダがあります。その名のとおり、なんらかの事情によってボツになった企画たちが眠る、想念の怪獣墓場みたいなフォルダです。

今日は、そんなフォルダのなかから、「あのとき、これやってたらおもしろかったかもなー」という企画を紹介したいと思います。


タイトル 『吾輩は紙幣である。』
帯文 ——男なら万札の肖像画になってみろ!!——

企画概要:
男子一生の夢とはなにか。上場企業の経営者? 内閣総理大臣? ノーベル賞受賞? そんなちっぽけな目標では、とても夢とは呼べない。男子一生の夢、それは「日本銀行券の肖像画になること」、すなわち「万札の顔になること」である。本書では、過去に日本銀行券の肖像画となった偉人たちを徹底分析し、その共通項を暴き、いかなる人生を歩めば将来「万札の肖像権」を獲得できるか考察する。


……えー、バカまるだしの企画ですが、ファイルの日付を見ると2005年。うーん、なんだろう。海外の独裁国家とかを訪ねると、もう「お札になったら勝ち!」みたいな雰囲気がありますよね? やっぱり権力者にとって、最終最後の夢として「お札になる」ってのはあるんじゃないかと思うんです。

もちろん、本気で「万札の肖像権」を狙う人に向けた本ではありません。

・お札の肖像画になってる人、意外と知らないよね。
・でも、それを網羅的に教えてくれる本ってないよね。
・でもでも、肖像画の選考基準もよくわかんないよね。

というあたりの雑学的・現代史的好奇心をくすぐる企画として考えました。ちなみに当時調べたところによると、お札の肖像画って、

一円札 :武内宿禰、二宮尊徳
五円札 :菅原道真、武内宿禰
十円札 :和気清麻呂
五十円札:高橋是清
百円札 :藤原鎌足、聖徳太子、板垣退助
五百円札:岩倉具視
千円札 :日本武尊、聖徳太子、伊藤博文、夏目漱石、野口英世
五千円札:聖徳太子、新渡戸稲造、樋口一葉
一万円札:聖徳太子、福沢諭吉

というラインナップなんですよ。ここから江戸~明治期以降の人物をピックアップしたらこうなる、と企画書には書いてあります。

・二宮尊徳(農政家、思想家)
・高橋是清(政治家)
・板垣退助(政治家)
・岩倉具視(政治家)
・伊藤博文(政治家)
・夏目漱石(小説家)
・野口英世(医学者)
・新渡戸稲造(教育者)
・樋口一葉(小説家)
・福沢諭吉(思想家、教育者)

この顔ぶれから察するに、とりあえず政治家になるのが万札へのいちばんの近道に見えますね。しかし、ここにいるのは戦前の政治家ばかり。戦後の政治家はひとりもいませんし、常識的に考えて、たとえば自民党政権のあいだに政府が「安倍晋三を一万円札に!」なんてことを言い出したらとんでもない騒ぎになるでしょう。政治が「歴史」になるには、かなりの時間が必要なのです。実際、近年は小説家、教育者、医学者といったアカデミズム畑の人々がお札の肖像権を勝ち得ていますし。

じゃあ、ここにいる政治家以外の人々、つまり二宮尊徳、夏目漱石、野口英世、新渡戸稲造、樋口一葉、福沢諭吉らに、どんな共通項があるのでしょうか? 彼らのなにを見習えば、ぼくたちもお札になれるのでしょうか?

……これが考えても考えても見えてこず、この企画は頓挫したのでした。


————転載おわり————


なお、新紙幣へのデザイン刷新は2024年度とのこと。その時期にあわせて「いかにして万札の顔になるか」なんて馬鹿な本ではなく、「紙幣を飾った人びと」というテーマで日本武尊(やまとたけるのみこと)から渋沢栄一までを紹介する、あたらしいタイプの偉人伝をつくったらおもしろいのかもなあ。

馬の耳に壇蜜。
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古賀史健

ライター。バトンズ代表。著書「嫌われる勇気」「古賀史健がまとめた糸井重里のこと。」「20歳の自分に受けさせたい文章講義」など。週日更新しています。http://www.batons.jp

古賀史健(2018)

古賀史健の note、2018年分です。
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