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モグラとヒグマの、そのあいだで。

なんだかもう、自分で自分にあきれてしまった。

きのう、国立科学博物館で開催中の「大哺乳類展2」に出かけた。ほぼ日の学校「ダーウィンの贈りものⅠ」のプレイベントとして開催された、ナイトミュージアムに参加したのだ。夜の博物館を歩く、という行為そのものもたのしかったし、「大哺乳類展2」のコンセプトや展示もすばらしかった。

館内のメインステージともいえる場所には、たしか500体を超える剥製標本が展示されていた。体長3メートルはあるんじゃないかと思われる、大迫力の(しかも凶暴なポーズをとった)ヒグマからネズミやモグラの仲間まで、ありとあらゆる哺乳類の剥製標本が並ぶ、超豪華版ノアの箱舟みたいな展示だった。

そして居並ぶ哺乳類たちを眺めながらぼくは、真っ先にあることを考えた。



「どいつまでなら、勝てるかな?」

あのヒグマに襲われたらもう、一巻の終わりだ。かるいビンタ一撃で顔面が吹き飛んでしまうだろう。チーターだのオオカミだのの仲間にも、到底勝てる気がしない。ハイエナもえらく強そうだし、考えてみればぼくはドッグランでときどき見かけるシベリアン・ハスキーだって、勝てるとは思えない。いや、ひょっとしたらうちの犬(ビーグル)でも、本気で牙をむいてきたら危なっかしい。横綱相撲で受け流すことなどできるはずもなく、命を奪い合うくらいのつもりで対峙しないとやられてしまうだろう。ゴリラもつよい。ニホンザルだって怖い。パンダはどうか。レッサーパンダなら大丈夫か。

……みたいにして「ここまでは勝てる」「ここからは勝てない」のラインを引こうとしていた自分に、かるくショックを受けてしまった。なにをやろうとしているのか、おまえは。そんなにいつも、誰と闘っているのか、おまえは。

理性でわかっているいろんなこととは別に、どうやらぼくは心のどこかで「勝つか、負けるか」ばかりを考えているみたいだ。たぶんそれは、仕事をする上においても。仮想読者(想定読者)と背中合わせのように「仮想敵」がいるのだろう、ぼくの心には。


おおきな本を書きはじめたばかりのこの段階でそれを自覚できたこと、ほんとうによかったと思っている。