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水道橋のサンタクロース。

いつもどこかで醒めきった、つまんない子どもだったのかなあ、と思う。

世代的な問題もあるんだろうけど、ぼくは生まれてから一度もサンタクロースという人物の存在を信じたことがない。クリスマスに無頓着な家庭だったし、集合住宅暮らしの子どもにとって、煙突から降りてくる善良なる白髪の老人、という設定はあまりにもおとぎ話だった。おばけは信じていたくせに、不思議なものだ。


10数年前のこと。

たぶんクリスマスか、大晦日近くか、そんな時期だったと思う。水道橋のジョナサンで、レスラー仲間を引き連れてささやかな豪遊をするテリー・ファンクを見たことがある。後楽園ホールでの試合後だったのだろう、おでこに大きな絆創膏を貼ったテリー・ファンクが、うすっぺらいステーキにナイフを入れ、唐揚げをほおばり、上機嫌でビールを飲んでいた。

それまでにもそれからも、ファミレスで芸能人をお見かけする機会はたびたびあった。大御所と呼ぶにふさわしいミュージシャンの方が、ドリンクバーでのコーヒーの淹れ方がわからず、まごまごする場面に遭遇したこともある。そういうときは普通に「そうだよなあ、みんなファミレスくらい使うよなあ」と思うし、そんなに驚くこともない。

でも、水道橋のジョナサンで見たテリー・ファンクのささやかな豪遊は、なんかショックだった。できればそんな姿は、見たくなかった。

ぼくにとってのプロレスラーは、圧倒的に「ファンタジーの住人」だったのだろう。異次元に生きる人びとであり、つまりはアイドルであり、できれば庶民的なファミレスなんか利用せず、ステーキハウスかなんかで血の滴るビフテキをぺろりと平らげてほしかったのだろう。


もうそんな時代じゃないんだよ、とたしなめられそうだけど、お相撲さんとプロレスラーにかぎっては、アスリートでも格闘家でもなく、ただただ人間離れした異形のひと、ファンタジーの住人であってほしいんだよなあ。

サンタクロースは信じないけど、プロレスラーは信じる子どもだったんです、ぼくは。