犬の散歩と人生と。

リーダーらしく胸を張って、堂々と歩きなさい。

犬の散歩の心得として、しばしば語られる話である。そうすれば犬はぐいぐい引っぱることもなくなるし、あなたのことをリーダーと認め、寄り添うようにしずしずと側を歩くはずである。米国のカリスマドッグトレーナー、あのシーザー・ミランさんもそんなことを言っていた。

けれどもぼくにリーダーの資質が欠けているせいなのか、実際に犬を飼うようになってからその散歩法を試してみても、犬はちっとも隣を歩いてくれない。馬車犬のごとくにぐんぐん綱を引っぱり、先に先にと我が道をゆく。

そんなあるとき、動物病院の先生から散歩のコツを教えていただいた。

犬を見ようとせず、足元を見ようとせず、いつも15メートルくらい先を見て、たとえば2本3本先の電柱を見て、まっすぐに歩きなさい。そうすれば犬もぐいぐいをやめ、あなたと一緒に歩こうとするはずだから、と。

うちの犬、そんなレベルじゃないんだけどなあ。だまされたと思って試したところ、これが意外なほどに調子いい。ぐいぐいのすべてが止むわけではないのだけど、かなり軽減された気がするし、なんといっても歩く自分が気持ちいいのだ。なるほど、そういうことか。ぼくは得心した。


足元を見ず、15メートルや20メートル先を見て歩く。すると、自然と背筋が伸びてくる。猫背が改善され、胸を張った状態になる。視線を先に置くことによって自信ありげな、堂々とした歩き方になる。

もしかしたら仕事や人生、人間関係全般もそうなのかもしれない。足元ばかりを、今日や明日のことだけを気にしながら歩く人は、どこか自信なさげな頼りなさを醸し出す。「あの電柱をめざすんだ」程度の、どうでもいい行き先だってかまわないから、めざす先がはっきりしている人は、それだけで堂々としてみえる。この人についていこうという気にさせる。


最近、ライターとしてのぼくはどうも足元ばかりを見ていた気がするなあ。それはいかにも頼りなかっただろうなあ。少しばかり反省しながらいま、2本先3本先の電柱をさがしている。

教祖猫を噛む。
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古賀史健

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