駅前で見かけた男子高校生。

その男子高校生は、黒いセカンドバッグを手に歩いていた。

最近の若い子のあいだでは、セカンドバッグなんてものが流行っているのか。おれの青春時代、そんなの持ち歩く男なんて契約更改時の落合博満くらいしかいなかったぞ。オレ流か。大台突破か。丸めたチラシを一茂にトスバッティングさせるのか。……乏しい想像力で自分のなかにあるセカンドバッグ像を精いっぱいに膨らませていたぼくは、思わず「わっ!」と声をあげた。


男子高校生、セカンドバッグを食べたのだ。


パクッと食いつき、もぐもぐしてるのだ。おまえはディック・ザ・ブルーザーか。あれだっておまえ、せいぜい電話帳を引き裂くだけだぞ。食べたりまではしないぞ。視力低下の著しいぼくは、目を凝らして現実を直視した。

彼が咀嚼しているのは、全体に海苔が巻かれた巨大おにぎりだった。

セカンドバッグ大のそれを、裸のまま豪快にわしづかみ、往来で食らいついていたのだ。おまえは山田太郎か、などとツッコミを入れることさえ忘れてしまったぼくは、とてもまぶしいなにかを眺めるような目で、男子高校生のもぐもぐを見守った。彼の向こうに見えるとてもまぶしいなにかは、同じく男子高校生だったころの自分だ。


うちの高校の学食には、A定食とB定食とがあり、たしかA定食が280円だったと記憶している。そしてパン売り場には「粉パン」と呼ばれる粉砂糖のかかった110円の巨大クリームパンがあり、ぼくはいつもお昼にA定食と粉パンを食べていた。

さらに放課後、部活がはじまる直前に120円の丸天うどん(丸いさつま揚げがのったうどん)を食べ、練習に臨む。練習がおわると今度は板チョコを1枚たいらげ、帰り道にみんなでお好み焼きを食べに行ったりしていた。帰宅してからはどんぶりめしで夕食をとり、就寝前には夜食と称してたまごをのせたチキンラーメンを食べる。書いているだけで吐き気のするような、山田太郎はおれじゃねえか的な毎日を送り、それでも体重はまったく増えなかった。かなしいことにぼくの場合、身長も伸びなかったのだけれども。

あのころぼくは、ほんとにおなかが空いていたのだろうか。それとも、さまざまな「おとなのあそび」が法律的に禁じられ、ひたすら食べることくらいしか「欲」のはけ口がなかったのだろうか。

うちの犬を見ていると、どうも後者のような気がしてくる。


武士は食わねど高橋ジョージ。
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古賀史健