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眠気と空腹、どっちが勝つか。

ねむたいとき、「ねむたい」以外のことを考えるのはむずかしい。

おなかが空いたとき、「おなか空いた」以外のことを考えるのもむずかしい。


それではこの両者が正面からぶつかったとき、勝利を収めるのはいったいどちらなのか。眠気と空腹はどちらのほうがよりつらく、ひとを疲弊せしめる状況なのか。われわれの意識は、肉体は、どちらを選ぶのか。

……じつはこれ、実体験としてよーく知ってる話だ。ひと(少なくともぼく)が耐えられないのは、間違いなく眠気なのである。


赤貧生活に甘んじていた二十四歳ごろ。ぼくはほとんど常態のように、おなかが空いていた。いつだって空腹で、ときにそれは限界を迎えていた。たとえば今日、これからなんにも食べなかったら夜中にたいそうおなかが空くだろう。けれどもそういう「晩めしをほしがる空腹」とはレベルの違う、何十億もの細胞すべてがいっせいにぞわぞわ震えるような、生命としての危険水域を垣間見る類いの空腹というものが世のなかにはあり、当時のぼくは週に二〜三度それに襲われていた。

もちろん耐えがたい空腹である。胃がけいれんするような、吐き気をもよおすような空腹である。けれども食べものはなく、お金もないのである。じゃあ、どうするか。


寝るのだ。


腹が減ったから、寝る。


これは多くの赤貧野郎が実践していたサバイブ術である。「おなかが空いて、夜も眠れない」なんて、ほんとうの空腹でも眠気でもない。人間、ほんとうのほんとうに眠気がやってくれば、どんな空腹を抱えていようと寝てしまうのだ。そして寝てしまえば、空腹も忘れ去られるのだ。

いまぼくは、ものすっごい眠気のなか、これを書いている。眠すぎて眠すぎて「眠い」以外は書けないな、と思い、やむなく「眠い」を書いている。

これから30分、仮眠をとります。