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ぼくにとっての文字数。

なんだかんだとぼくは、長い原稿を書くのが好きである。

少なくとも短い原稿を書くときよりも、長いものを書いているときのほうがうれしい。なにがなんでも書きたい人間ではないものの、どちらか一方を選べと言われれば、長い原稿を選ぶ。それはきっとぼくの出自、また世代がおおきく影響しているのではないかと思う。

ここにも何度か書いた話だとおもうけれど、ぼくがフリーになって最初に請けた仕事は、チラシだった。日帰りバスツアーの案内文とキャプションが、ギャラをともなう最初の仕事だった。行程表の隣、観光地の白黒コピー写真が入るスペースの下に「CP80W」などと書かれたラフ用紙を受けとる。ここに80文字以下のキャプション(写真の説明文)を書いてくれ、という指示だ。決められた文字数で、なんとなくの説明文を書いていく。なんだかそれは「お前には80文字分の信頼しか置いてねえからな」と言われているような気分だった。

そこから少しずつ仕事の幅が広がり、数も増え、書かせてもらえる文字数も増えていった。「そんなに書いていいの?」「このページぜんぶ、まかせてもらえるの?」と小躍りした。


ぼくにとっての文字数とは、そのまま信頼の表れだったのだ。


だからはじめて本(書籍)の仕事をしたときも、「これぜんぶおれが書いていいんですか? おれのこと、そんなに信頼してくれてるんですか?」しか頭になかった。

いま、20万字や30万字にも及ぼうかとする本を、ちくちく書き進めている。まったく果てしがないなあ、と思いつつも、おれはこれを望んでいたはずなんだよなあ、と自分に言い聞かせている。