発熱と熱発のあいだで。

いきなり失礼にも程があるよ、まったく。

ご立腹である。ぷんぷん丸である。きのう、取材でダイヤモンド社を訪れたところ、幾人もの方々から出会い頭に「大丈夫ですか?」と問われた。顔色が悪いだの、頬がこけてしまっているだの、覇気がなくて抜け殻みたいだの、さんざんなことを言われ、笑われた。

もしも自分にも疲労や疲弊の自覚があるのなら、それらのことばに「そうなんですよぉ〜」なんて甘えてみたり愚痴をこぼしたりもしたのだろうけど、少なくともきのうの自分は元気なつもりだったし、何時間か睡眠もとっていたし、ヒゲも剃っていた。ひさしぶりに気仙沼ニッティングのセーターを着て、むしろピシッとしてるつもりだった。なのにこの言われようである。

取材がおわり、ささやかな忘年の食事会もおわり、事務所に戻る。

パソコンを起動し、やらねばならぬ原稿と睨めっこしながら、はたと気づく。もしかしたらおれ、疲れているのかもしれない。書くべき原稿の総体はもこもこ中空に浮かんでいるものの、それをちっとも文字に変換できない。元気なはずなのに。やる気に充ち満ちているはずなのに。

午前0時をまわり、ひとまず家に帰り、「かっわいいなあ」なんて犬撫で声を出しながら犬を抱いたり撫でたりしたのち、早めにベッドに入る。


遅刻ぎみに起床した今朝、深々と得心する。測らずともわかるくらい見事に、発熱をしていた。競馬用語で言うところの熱発をしていた。なぜ競馬の世界で発熱のことを熱発というのか、ぼくはよく知らない。けれども熱発の語を知った十数年前、そっかあ、お馬さんたちも風邪を引いたり熱を出したりするんだなあ、と当たり前のことを当たり前に受け止め、自分の見識の浅さに恥じ入ったことを思い出す。

いまひたすら考えているのは、犬に伝染ってなければいいなあ、である。

おまえも風邪を引くのかい?

壁に耳ありジョージとメアリー。
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古賀史健

何度も読み返したい素敵な文章の数々 vol.6