ベテランにならないために。

「好き」を仕事にする。

なんだろう、ライター募集の求人広告なんかに出てそうな言葉である。もしかしたらぼくも、あのひとやこのひとも、そんな仕事をしているように見えているのかもしれない。うらやましいなあ、好きなこと、得意なことでごはんを食べて。そんなふうに映っているのかもしれない。

でもね、とぼくは思う。「好き」や「得意」だけじゃ仕事になんないよ、と。

ここはなかなか説明がむずかしいのだけど、嫌いなこともやらないとメシが食えない、という話ではない。ほんとうに嫌な仕事だったら、断ってしまえばいい。それで仕事がなくなるリスクよりも、嫌いなひととの嫌いな仕事を続けてこころが磨り減っていくことのリスク、それでいいものがつくれなくなるリスクのほうが、断然高い。

でも、自分が得意なことばかりを続けていくのも、それはそれでこころが鈍磨していく。成果物のクオリティも下がっていく。なぜならそこに「発見」がなくなるからだ。

わあ、びっくりした。ひゃあ、知らなかった。しぇー、吃驚した。

そういう「発見」があったとき、こころの大きな揺れがあったとき、原稿はおもしろくなる。平凡なる素人である自分の驚きがそのままかたちになり、おそらくは読むひとにとっての驚きや発見につながる。

そして慣れ親しんだ、自分の得意ジャンルのなかで「わあ」や「ひゃあ」の声をあげることはなかなかむずかしく、「わあ」が言いたければ、「しぇー」と叫びたければ、知らない場所、苦手な地域、これまで避けてたエリアに飛び込んでいくしかない。半端なベテランになっては、たぶんいけないのだ。


いろんなことに好奇心をもって取り組みなさい、みたいなことばは馬耳東風になりやすいけど、「わあ」を探しなさい、「ひゃあ」に出会いなさい、「ふむふむ」や「そうそう」からは身を遠ざけなさい、のアドバイスだったら通じるのかもしれないなあ。

ぼくはいっさいの得意分野をもたない、ふらふらしっぱなしのライターなんだけど、もしも若いころに得意分野を定めていたら、いまごろ先細りしまくってると思う。いつまでも「ひゃあ」が言える人間でありたいなあ。

郷に入ってはひろみに従え。
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古賀史健

creative notes #1

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