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【仕事編】 旅に出ているあいだ、みなさんからの質問にお答えします。

思えば去年のいまごろ、ネパール出張なんて想像もしてなかったなあ。

いちおうこれ、仕事ですから。出張ですから。あそびに行ってるだけじゃ、ありませんから。ゲラゲラ笑いながら旅してるに決まってるけれど。まじめにお仕事していると人生、なにが起こるかわかりませんね。

というわけで本日は、「仕事編」に分類させていただいた質問と、その答えです。


仕事にまつわる10の質問。


Q.1 会社勤めの私には、就業時間が決まっていない働き方のイメージが湧きません。24時間をどの様に過ごしていらっしゃいますか? また、お仕事日と休日、お仕事前後のプライベート時間とのメリハリはどうやってつけてますか?

A. いまは会社組織にしていますし、いちおうの就業時間もあります。料理でいえば、前菜からはじまってデザートで終わるコース料理。始業時刻があり、終業時刻のある働きかたが基本です。

とはいえ、おおきな締切が迫ってきたときには、それもぐずぐずのちゃんこ鍋になってしまいます。そしてフリーのころはたぶん、「プライベート」ということばさえ存在しなかった。「めし、風呂、寝る」以外のほとんどすべては「書く」でした。

そのうち身体を壊し、いろいろあって会社をつくり、犬がやってきてからようやく、毎日家に帰る生活になった感じです。いまは、週末の最低どちらかはちゃんと休んで、犬とあそぶ日をつくっていますよ。


Q.2 スケジュール管理をどのようにされているか知りたいです。

A. 情けないことに、管理できてないです。10万字を超えるような本の原稿を書くのって、深い深い意識の海に潜っていくような作業なんですよね。

なので「よし、潜るぞ!」と決意するまで、あるいは「いまなら潜れる!」とスイッチが入るまでのぐずぐずタイムも、じつは「書く」時間のだいじな一部だったりするんです。少なくとも「よし、13時になったからここでやめて、こっちの原稿にとりかかろう」とは、なかなかならない。

そういう言い訳を並べつつ、時間割に合わせて自分を動かすというよりは、自分に合わせて時間割を動かしていくスタイルで働いています。


Q.3 愛用している筆記用具を教えてください。ノートとペンについて知りたいです。

A. 筆記具は、パイロットの万年筆「キャップレス」。ノートは、オキナの「プロジェクト・リングノート」がここ数年のお気に入りです。


Q.4 仕事をしていて楽しいと感じるときはどんな時ですか?

A. オセロがひっくり返ったとき、という言い方をしているのですが、それまで不安とストレスしか感じていなかったであろう編集者さんに原稿を提出して、「うおおおおお!」と手のひらが返る瞬間が、たまらなくうれしいです。逆にいうと、オセロが一枚もひっくり返らず「ああ、いいっすね。お疲れでしたー」みたいなリアクションしかこない原稿は、失敗した原稿だと思っています。


Q.5 「ベストセラーであり、ロングセラーになる秘訣」のようなものがあるとすれば、どうすればそこに近づけるのか具体的に教えていただけたら幸いです。

A. 少なくとも、ここ数年のベストセラーを調べて傾向と対策を練る、みたいな作業からはなにも得られないと思っています。

よく世界最大のベストセラーは聖書だ、と言われますが、印刷技術がなく、識字率も低かった時代にまでさかのぼって考えたとき、人類最大のロングセラーって「伝統宗教そのもの」だと思うんですよね。

だから、たとえば浄土宗とか、浄土真宗とか、日蓮宗とか、真言宗とかの各宗派が、誰の、どのような教えによって日本人のあいだに広まり、どういった理由によって21世紀の現代まで生き続けてきたのかを調べたり、考えたりする。そういうなかに、いろんなヒントが詰まっているのだと思います。

「いま、人びとはなにを求めているのか」を考えるのではなく、「そもそも人は、なにをもとめているのか」を考えること。その補助線として伝統宗教や古典文学がある。そんなイメージです。


Q.6 明日「小説」の編集をするとして、どれくらい作家に要求をしますか。

A. ちょっと質問の意図がわかりづらいのですが、ぼくが作家さんに求めることがあるとすれば、「あなたなら、もっとできる」の一点だと思います。その前提で依頼しているはずなので。


Q.7 今はどんな本を作っているのですか?またこれからどんな本を作りたいですか?

A. えーっと、お話しできる範囲としては、写真家・幡野広志さんの本と、自分の「文章の教科書」めいた本。あとはまだお話しできない本(たぶん数年〜十年がかり)が何冊か。

やっぱり本をつくっているわけなので、「本のかたちでしか残しえないもの」というか、「本以外のかたちをとれば価値が損なわれてしまうもの」をつくりたいですね。



Q.8 フリーライターになって10年ほどになります。 フリーになりたての頃からつき合いのある出版社があり、 仕事の内容については、ある程度任せてもらったり、こちらの意見を取り入れてもらうことももちろんありますが、 基本的に、先方が提示したことを受け入れるスタンスでやってきました。 依頼内容、原稿料、締切等、少々不満に感じることも飲み込んでやってきた部分もあり、 だんだん無茶ぶり的なことが増えてきて、「この人はどんな条件でも文句を言わない」みたいに思われているような気がしています…。 編集者とのつき合いも長いので、それなりに信頼関係はあり、大きな仕事も任せてもらったりで感謝の気持ちもあるのですが、 一方で、それなりに実績も積んできたので、自分の要望をもっと伝えてもいいのかな、という思いもあります。 古賀さんは、仕事先からの依頼の内容に不満があるときは、どのように対応されていますか?

A. ベテラン期に差しかかったいまのぼくだったら、迷わず断ります。若手の雑草ライターだった20年前のぼくなら、便利屋に徹してがむしゃらにやります。便利屋としての自分を極めます。そして10年前のぼく、つまり中堅に差しかかろうとしている「フリーライターになって10年ほど」のぼくだったら、うーん。

フリーでやってると、どうしても最初はひたすら腰を低く、周囲に低姿勢で接すると思うのですが、どこかの段階でおのれの姿勢を「中腰」くらいに正さなきゃいけないんですよ。そうじゃないと、ライターとしてほんとに腰を悪くするし、まわりにも迷惑をかけるし、いつまでたっても背筋を伸ばした二足歩行ができなくなる。ぺこぺこしながら請け仕事だけを続けるのは、ほんとうの「決める」というリスクを負わないまま、ずるずる生きることと同義なんですよね。

あと、クライアントを分散しておくことはとても大切です。命綱が一本しかない登山なんて、そんなの命綱でもなんでもないというか、危なっかしくて山を登れませんよね。


Q.9 仕事で、今日はこれがうまく行った! というのと、これを失敗してしまった、ということを繰り返しています。 たまに、ああー、なんでこんな失敗しちゃったんだろう、と心がずーんと落ち込むことがあります。 失敗して落ち込んで、なかなか気持ちの切り替えができないとき、古賀さんはどうされていますか?

A. ぼく個人でいうと、とことん落ち込むし、とことん考えます。失敗して目の前がまっ暗になるのって、失敗した理由がわからないからだと思うんです。なんでもいいから失敗した理由についての仮説を立てて、その検証作業としての「次の仕事」に当たってみてはいかがでしょう。もう、そこは半分ゲーム感覚で。

あと、失敗の原因を外部要因に求めていたら「もっといい人と組む」みたいな、自分ではどうにもならない解決策しか浮かばなくなるので、「おれ」のなにが間違っていたのかだけを考えましょう。「おれ」になんの落ち度もない失敗は、存在しないと思っています。


Q.10 ライターをやめたくなることはないですか? もしくはこれまでになかったですか? もしあるとしたら、そういうときに自分を繋ぎ止めるものは一体何なのでしょうか?

A. 何度となく、やめたくなっています。ぼくをライターの仕事につなぎ止めた要因は「ほかにできることがないから」。いろんな職業にあこがれて、その都度ちいさく挫折して、めぐりめぐってこの仕事に流れついたのがぼくなので。