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風邪を引いた、その感じ。

熱がある。

体温計で測ると37度未満なのだけれど、あきらかに熱がある。熱が出たときのような、うすい悪寒があり、喉の痛みがあり、だるさがあり、関節の痛みがある。ないのは熱だけだ。薬は飲んだし、朝よりはずいぶんましになっている。おそらくひと晩も眠れば、おさまるものだろう。

自らの不調について、こういう場では書かないほうがいい、という意見の人も多い。読まされるほうはおもしろくもなんともないし、けっきょくのところ「大丈夫?」や「お大事に」の声くらいしかかけようがなく、とくにそれが心因的なつらみだったりする場合は、かまってほしいだけだろ、との批判も浴びかねない。

けれどもぼくは、風邪を引いたり熱を出したりしたとき、わりとそのままに書き記してしまう。


明日、風邪を治した自分はまったくの別人で、きょうの「この感じ」をものの見事に忘れている自信があるからだ。


のどの奥が熱を帯び、ひりひり肥大している感じ。からだの表面は冷えているのに、表皮一枚を隔てた肉は火照りきっている感じ。深く呼吸をするたびに悪寒が走り、それが頭痛に届きそうな感じ。身体をじっと椅子に固定することがかなわず、ぐねぐねゆらいでしまう感じ。おもむろに体温計を取り出し、熱を測りたいけれどきっと熱はないのだろうとあきらめてしまう、この感じ。


いま心身を包み込んでいる「感じ」をことばにしていくと、なんとなくうまいこと言語化できたような気になるのだけれど、たぶん明日にこれを読んだらなにひとつ伝わらないだろう。汲み取ることができないだろう。もう何度となく風邪を引いてきた人生なのに、治るたびにほんとうの「感じ」を忘れちゃうのだ、ぼくらは。

犬は熱があるとき、なにを思っているんだろうなあ。