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ネーミングのお手本

文章を書くことをなりわいにしておきながら、これはぼくには無理だなあ、と思うのがネーミングのお仕事です。本のタイトルとも違う、帯文コピーとも違う、単語としての名付け。これができるひと、つまり抽象と具象の接地面を見つけるのが抜群にうまいひとって、やっぱり特殊能力の持ち主じゃないかと思うんですよね。ということで本日は、ぼくが大好きなネーミングをいくつか紹介したいと思います。


(1)ひかり
やっぱりすごいですよね。夢の高速鉄道に「ひかり」の名前を冠するセンスは。どんだけ速いんだ、って話でもあるんだけど、やわらかくもあり、まぶしくもある。それまでの、どこか軍艦的な響きを引きずっていた寝台列車のネーミングとは、ちょっと次元が違う。ららら科学の子、ですよ。

(2)魔法瓶
あたりまえに使ってるけど、というか死語になりつつあるけど、これってとんでもないネーミングだと思うんです。魔法の瓶ですよ? 保温とか、機能のことはなんにも関係ないんだもん。このロジックでいくならテレビジョンのことを「魔法箱」と名付けてもよかったわけですよ。レコードを「魔法盤」と名付けても。でも、世のなかのあらゆる魔法は「瓶」が持っていっちゃった。言ったもん勝ちの正義というか、有無を言わさぬ自信を感じますよね。

(3)すけきよ
もしもフィクションの登場人物を「商品」と考えるなら、このネーミングは外すわけにはいきません。『犬神家の一族』に登場する、犬神佐清(すけきよ)です。もし、すけきよが「犬神健太郎」とかの名前だったら、あの不気味さ、ただならなさ、は出なかったと思うんですね。もちろんあの乳白色のゴムマスクがあってこそのすけきよなのですが、一生忘れられない音の響きは、ちょっと真似できないというか、再現性の持ちようがないなあ、と思っています。

(番外編)アントニオ猪木
位置的に、人物的に、なんだかオチのような扱いになるかもしれませんが、すごい名前だと思うんですよ、アントニオ猪木。意味がわからないじゃないですか。わかりようがないじゃないですか。ジャイアント馬場とかジャンボ鶴田とか、風貌やファイティングスタイルを表すことばじゃないんですよ、アントニオ。いちおう「ブラジル移民ってことで売り出そう」という背景はあったのでしょうけど、それにしてもどうやってアントニオに飛んだのか。むかしのプロレス雑誌とか読むと「かつてアントニオ・ロッカという名レスラーがいて、そのロッカのように云々」みたいな説明は書いてあるのですが、後付けに決まってるんです、そんなものは。力道山とか豊登とかが「なんか、アントニオってよくね?」みたいなノリで決めたんですよ、きっと。でも、おかげでジャイアントやジャンボとも違う、異物感、唯一無二感が出たわけだし、これって猪木さんの「誰もやったことのないことをやる」なファイティングスタイルにもつながっていったんじゃないかなぁ、なんて邪推しています。

以上、ネーミングのお話でした。古いものばかりになったけど、最近だとなんだろう。月面探査機の「かぐや」は、ちょっと好きだったかなあ。