プレーンピザと塩むすびの理由。

ぼくはイチローさんに取材をしたことがない。

けれども、「イチローさんに取材をした人」に取材をしたことはある。早いものだなあ、もう10年以上も前、ぼくはその人の本をつくった。もちろんイチローさんをテーマにした本ではなく、あえていえば池波正太郎さんの『男の作法』の現代版、みたいな本だった。

雑談のなかでその人は、イチローさんの食事について語ってくれた。有名な「イチローは毎日カレーライスを食っている」関連の話だ。このエピソードについては誤解も多いし、もうその方の著書で公になっていることでもあるし、思い出話ついでに書いておきたい。

たしかにイチローさんは(少なくともあの当時)毎日カレーライスを食べていた。弓子夫人お手製のカレーライスだ。しかし、そのカレーが食べられるのも自宅のあるシアトルにいるあいだだけ。遠征先では当然、カレー以外の食事をとることになる。

夜は違ったそうだけど、イチローさんは遠征先の昼食に、いつも同じピザを食べていた。全米にチェーン展開するピザ屋さん(たしかカリフォルニア・ピザ・キッチン)の、プレーンチーズ・ピザを食べていた。そして引退記者会見でも語っていたように、シアトルでの試合前にはいつも弓子夫人お手製のおにぎりを食べていた。具が入っていない、シンプルな塩むすびだ。

ここまで書くと「なぜ同じものを食べ続けるのか?」と同じくらいに「なぜプレーンピザや塩むすびなのか? 具やトッピングはいらないのか?」という疑問が出てくるだろう。イチローさんの答えはシンプルである。


彼は、自分のバッティングの好不調を決めるファクターに、「その日なにを食べたか」を差し挟みたくなかった、というのだ。

「あそこで食べたステーキがよくなかったのかもしれない」「付け合わせのサラダが傷んでいたのかもしれない」「トッピングした貝にあたったのかもしれない」などの不確定要素があると、正確な自己分析ができなくなる。そのため、わざわざ同じものばかりを食べ、しかも具やトッピングのないものばかりを(とくに試合前は)食べるようにして、意識を野球だけに集中できる環境を整えていたのだ。変わり者の偏食では、決してない。


明後日の日曜日、NHKスペシャルでイチローさんの特集が放映されるのだという。

たぶん月曜日、ぼくは感想を書かない。好きな人とだけ、ほかに誰もいない場所で集まって、いつまででも語り合いたいのだ。何度でも、何年でも。

鬼にカネボウ。
208

古賀史健

古賀史健(2018)

古賀史健の note、2018年分です。
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