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犬の考えていること、ぼくの考えていること。

うちの犬は、夜更かしだ。

ともに暮らす人間がそうだから仕方がないのだろうけれど、下手をすると、夜中の2時や3時までギンギンに起きていることがある。自然の摂理に反しているような、彼が本来持つ生理的リズムを狂わせているような申し訳なさはあるものの、どうやらぼくが仕事に出ているあいだ、つまりこの時間にはぐうぐう寝てくれているようで、彼なりにバランスを取っているのかもしれない。

代わりに、なのか彼の気質なのか、うちの犬は夜にぐずる。人間の赤ん坊や幼児がそうするように、ものの見事にぐずる。具体的にはリビングをうろうろと歩きまわり、「うー」だの「わん」だの声をあげ、捕まえようとすれば反抗的な顔で抵抗し、スリッパや服をくわえて逃げまわったりする。

目を見れば真っ赤に充血し、いかにも眠そうだ。けれどもここで寝てしまうのがくやしいのか、また立ち上がっては部屋を歩きまわり、なにもない中空に向かって「わん」とか言ったりしている。

それが最近、膝の上でこの姿勢をとらせると、1分としないうちに寝息を立てるようになってきた。目を閉じて本格的な睡眠に入るまでにはもう少しの時間が必要だけれど、観念したかのように眠ってくれる。

こうなるのを待ってたのかもしれないな、と思う。

「もう眠ってもいいんだよ」
「番犬しなくてもいいんだよ」
「誰もこないし、どこにも行かないよ」

そんな夜がやってきた合図として、このひっくり返しの姿勢があるのかもしれない。ひとまずぼくは、そう思うことにしている。


犬がほんとうのところどんなことを考えているのか、ぼくにはわからない。同時に彼も、ぼくがほんとうのところなにを考えているのか、わかっていないはずだ。わからないからぼくらはたくさんのサインを送り合い、たくさん試して、たくさん考える。

わかり合えているつもりの関係より、こちらのほうが健全な気がする。