ぼくは「就職」していない。

何度となく聞かされた「出版はオワコン」という話。


たぶん、ぼくのような人間を傍目に見ながら、衰退しつつある業界にしがみつく愚かな男と笑っているひとは一定程度いるんだろうなあ、と思います。出版なんてもう儲からないオワコンだよ、とか、沈みゆく泥船だよ、これからは○○だよ、とか、いろんなご意見があるんでしょう。

こっちはそれを本業としながらめしを食ってるわけなので、外野でいろいろ論評されている方々以上に「ほんとのヤバさ」も知っています。危機意識はそれなりに強いし、だからフリーランスをやめたところも大きいし、同意するところも多々なのですが、でもでもでも。


ぼくは「儲かるから」とか「かっこいいから」を理由に、いまの仕事をやってるわけではないんですよね。だから、たとえ出版が「儲かりにくい場所」になったとしても、「かっこわるい場所」になったとしても、それを理由に退場するはずがない。そんなもの、辞める理由になりようがない。

かといって、本とか出版とかへの愛が強いというわけでもなく、紙の手触りやインクの匂いにうっとりできる人間でもない。中学から大学時代まで映画監督になりたかったわけで、「本の虫」ですらない。うつくしい「愛」を理由に、ここにしがみついてるわけではないんです。

じゃあ、どうして「出版はオワコン」が響かないのか?


たぶん、ぼくは「就職」してないんですよ。

職業として、勤め先として、食いぶちを稼ぐ手段として、ライターになったわけじゃない。ぼくが最初に「就職」したのはメガネ屋さんですから。メガネ屋さんを辞めて、流れ流れてこの仕事をしているだけで、それは「就職」じゃないんだよなあ、といまさらのように気づきました。そしてあのまんまメガネ屋さんで働いていたとして、「もうメガネ屋なんて儲からない。こんなのオワコンだ」という議論になったら、ふつうに「転職」を考えていただろうなあ、とかなんとか。


なんかね、いま読んでる『水滸伝』のなかに、おもしろい話があったんです。

ぶくぶくと肥大化し、熟れすぎた果物のように内部から腐敗し、弱体の一途をたどる宋の国の官軍。「志」のもとに結集した梁山泊の反乱軍に対抗すべく、官軍は思いきった策に出る。使えない兵士、やる気のない兵士、戦に不向きな兵士たちの軍役を解き、彼らを農耕や公共工事などの仕事に就かせる。ここでの稼ぎが官軍の資金源となり、スリム化された精鋭の官軍は、豊富な財政のもと、大胆な作戦に打って出る。

早い話がリストラなんだけど、ここでリストラされた兵士たちは、たぶん官軍に「就職」してたんだろうなあ、と思ったんです。


『水滸伝』、いま8巻まできました。

馬の耳に壇蜜。
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古賀史健

コメント1件

水滸伝8巻!!こんなところでシンクロ
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