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売れない本のつくりかた

ぼくは本をつくる仕事をしています。だから当然、毎日どころか毎時間、毎秒のように「売れる本」のことを考えています。「いい本」をつくるのなんて、プロとして当たり前の大前提。たいせつなのは、その「いい本」をどうやって「売れる本」にしていくか、つまり読まれるべきたくさんの人に届けていくか、なのです。

それで、たぶん世のなかには「これをすれば売れるよ」なんて法則を持っているひと、正確にはその発想に縛られているひとも大勢いて、たとえば「タイトルに数字を入れると売れるんだ」とか、やれ「疑問形のタイトルがいいんだ」とか、たいへんけっこうな法則を語られるのですが、まあそういった方々には、ぜひそのすばらしい法則でばんばん売ってください、というほかありません。

一方、ぼくはこれまで100冊近い本をつくってきましたが、まだまだ「売れる本のつくりかた」なんて法則は見つからず、たぶんこの先ずっと見つからないだろうと思っているところです。ただ、数だけはこなしてきたおかげで「売れない本のつくりかた」だけは、確実なところがわかってきた気がします。

売れない本をつくる、いちばん簡単な方法。それは「チームのなかに、ひとりでもいいから〝本気じゃないやつ〟を入れること」です。ここでの〝本気〟ということばは、ちょっと根性論っぽいニュアンスもあるので〝楽しんでないやつ〟と言い換えてもいいかもしれません。本はとっても正直なコンテンツなので、チーム(編集者からデザイナー、校閲者まで)のなかにひとりでも〝楽しんでないやつ〟がいると、その楽しくない成分は、確実に本のなかにも混入します。そして読者の方々は、その成分をかなり敏感に嗅ぎ分けます。もちろん、チームの全員が本気になって楽しんでいればそれで売れるのか、というとそんなわけはないのですが、それでも「話がはじまるのはそこからだ」くらいは言えそうな気もします。

だから、世間的にいうとライターなんてのは「請け仕事」の典型なんだろうけど、編集者がライターを選ぶように、ライターも編集者を選ぶ時代になっていかないと、いいチームづくりはできないんだろうなあ、と思っているところです。