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心配される、という才能。

きのう、オフィスに今井くんが遊びにきた。

もともとぼくは、年齢に関係なくほぼすべての人を「さん付け」で呼んでいるのだけど、今井くんはなぜか今井くんだ。きっとそれは、彼がもともと星海社という出版社で、カッキー(柿内芳文)のアシスタントみたいなことをやっていたからだろう。担当編集のカッキー経由で「今井さん」と会っているうち、いつしか呼び名が「今井くん」になっていった。

オフィスにやってきた今井くんにぼくは、「せっかくきたんだから、このへん掃除していってよ」とお願いした。ここで「わはははは」と笑ってごまかす人もいれば、怪訝と軽蔑が入り混じった表情でこちらを睨む人もいる。けれども今井くんはどちらを選ぶこともせず、「あ、いっすよ」と、そそくさと掃除をはじめた。


片づけてくれたお礼にと、そのあと一緒にごはんを食べに行った。

カッキーをはじめとして、今井くんにはたくさんの師匠がいる。スクラップの加藤隆生さん、ウェブ編集者でライターの中川淳一郎さん、鷗来堂・かもめブックスの柳下恭平さん、そしてもちろん星海社の太田克史さん。錚々たる面々が今井くんをかわいがり、応援し、幾度となく呆れ、心配をしている。そういう彼の後輩性が、たぶんぼくに「くん付け」をさせているのだろう。


もう後輩であることがむずかしい年齢に差しかかった身としてつくづく思うのは、いつか世に出て事を成していく人たちは、ほとんど例外なく、若かりし日に「かわいい後輩」であった、という事実だ。逆にいうと、若いころから隙のない優等生だった人たちは、どうしても30代のどこかで伸び悩む。

かわいい後輩とは、おべっかが上手だったり、手練手管のオヤジ&オバ転がしに長けていたりとか、そんな人間のことではない。素直で、ばかで、これからいくらでも変わってやるぞ、染まってやるぞ、という「描きかけのスケッチ」みたいな態度でいる人が、きっと応援や心配を誘う「かわいい後輩」なのだ。


と言って、ぼくは最近起業したらしい今井くんにおおきな期待を寄せているわけでもなく、積極的に応援しているわけでもなく、ただぼんやりと心配しているだけなんだけれども。

まわりを心配させるのも、おおきな才能のひとつではある。けれど、そろそろびっくりさせてほしいなあ。ぼくはあなたの師匠ではないけれど、たくさんの師匠さんに「びっくり」を返すことが、これからのあなたの仕事だし、たったひとつの恩返しだと思うよ。