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好きな本を再読するように。

人間ドックに行ってきた。

前回行ったのが、たしか一昨年の年末。とくに不調を自覚しているわけではないものの、安心を購入するつもりで久しぶりに行ってみた。まだ血液検査の結果待ちではあるものの、おおむね問題はなかった。身長が縮み、体重が増え、視力が大幅に低下していたのだけど、それは予想できたことだった。競技場から出発し、遠くへ遠くへ走り出したマラソン選手が、再び競技場へと戻りはじめている。折り返し地点を過ぎてレースのいちばんおもしろいところに差しかかっている。そう考えれば、身体の変化も悪いもんじゃない。

予想外だったのは、胃カメラと大腸内視鏡検査である。

胃カメラについては過去にも経験があり、バリウムよりもむしろ得意科目だった。しかし今回、はじめて大腸内視鏡検査を受けることを決意し、きのうからその準備がはじまっていた。

事前に病院から送られてきた消化によい食事(シチューやおかゆ)を前日の昼から食べ、就寝前に下剤を服用し、起床後に2リットルの下剤を痛飲して胃と腸をからっぽにする。そして病院では全身麻酔の点滴を打ち、胃カメラと大腸内視鏡検査を連続でおこなう。

文字にして書けばそれだけのことなんだけれど、麻酔のせいなのか胃カメラのせいなのか大腸内視鏡検査のせいなのか、尻から内視鏡を挿入される恥辱のせいなのか、いますこぶる体調が悪い。眠気と胃の痛み、膨満感、そして放屁欲と排便欲のすべてが襲いかかって仕事が手に付かず、大事な打ち合わせもキャンセルさせていただき、しかも家に帰れずにいる。


24歳にして会社を辞し、フリーランスなる社会の塵芥に身をやつし、公的な制度や常識との接点がないまま生きてきたぼくがはじめて人間ドックを受けたのは、30代のなかごろだった。ひどい働きかたをしてきた実感があったので、ひどい診断が出るだろうと腹をくくっていたのに、結果は「すこぶる健康」だった。うれしいような、さみしいような、複雑な心境だったのをよく憶えている。

今回もまた、胃カメラと大腸内視鏡検査の結果は「すこぶる健康」だった。じゃあ受けなくてもよかったかというと、受けたからこそ「すこぶる健康」と思えるわけで、それはどこか好きな本を再読するのに似ている。

きょうは帰りに書店に寄ってみよう。幡野広志さんの『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために』が、早い書店にはもう並んでいるかもしれない。