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ジャンボと見た空

高校のサッカー部時代、ジャンボというあだ名の同級生がいた。

ポジションはフォワード。身長は180センチ台のたぶん前半。いまのJリーガーからすると普通の体格である彼が「ジャンボ」と呼ばれるくらい、ぼくらのサッカー部はチビ揃いだった。

ある夏の日の放課後、早めに練習に出ると、ジャンボがひとり大の字になってグランドに寝そべっていた。照りつける暑さの、土のグランドだ。口を半開きにしたまま中空を見つめるジャンボに、ぼくは聞いた。

「なにしとん?」

ジャンボはぼくを一瞥することもなく答える。

「空、見よる」

空? 立ったまま首をねじり、空を見る。なんの変哲もない、おもしろみのない雲が浮かぶだけの、青い夏空だ。

「それじゃわからんって。寝そべってん」

ジャンボの声にうながされるまま、ぼくは彼の隣に寝そべった。グランドのすぐ脇には、Yシャツのサラリーマンや日傘をさした女の人が歩いている。さぞかし間抜けな光景だろうなあ、と思いながら空を見た、そのときだった。

「ほら、わかるやろ?」

そこには、白く輝く宇宙があった。地球という星の表面にへばりつくぼくは、宇宙と対峙していた。このままあっちに落ちていったら、その先はどこどこまでも深い、底なし沼なのだ。

「……動きよる」

ぼくは言った。空が、宇宙が動いているのではない。地球が、そこにへばりつくぼくが、動いている。それが実感としてわかった。

「やろ?」

ジャンボは笑った。ぐるんぐるん回る地球にかろうじてへばりついたまま、ぼくも笑った。

「こうしたら気持ちいいけん、おれたまにやりよるとよ」

「すごいね、これ」

そのうちぞろぞろと先輩たちがグランドに現れ、ぼくとジャンボは立ち上がってなにごともなかったように練習の準備をはじめた。ふわふわした感覚は、ずっと抜けることがなかった。


その後、砂浜や公園の芝生などで、大の字を試したことが何度かある。けれどもそこには天井としての空が拡がるだけで、白い宇宙はなく、地球が動くこともなかった。

夏の終わりのさみしさは、あの空が失われるさみしさだ。