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あの映画の、あの食べものを。

おれはこれを、どれくらいの頻度で使うのだろうか。

オフィスの引越を終えた昨年12月、最寄駅に隣接するビル、その地下にある飲食店街でぼくは、緑色の看板が輝くチェーン店を眺めながらおのれに問いかけていた。お店の名前は「サブウェイ」。あれはなんと言うのだろう、その場で具を挟んでいくスタイルを採る、サンドイッチ専門店である。

ほんとうはここで、サブウェイに関する個人的な思い出話をしたいのだけれども、それをするにはちょっと前段が必要だ。

たとえば同世代以上、それを劇場で観た世代の人と、映画『E.T.』について語り合う。するとたいてい、ピザの話になる。あの映画の中では主人公のエリオットが乗るマウンテンバイク(MTB)がおおきくフューチャーされ、当時の子ども雑誌でも「これからはマウンテンバイクの時代だ!」みたいな特集がさんざん組まれていた。

けれども子ども心にいちばん衝撃だったのは、宅配ピザである。アメリカでは、うどんや親子丼や寿司だけでなく、なんとピザを出前してくれるのだ。おそらくぼくはこういう「映画を通じて知ったアメリカ文化にあこがれる」最後の世代に属すると思うのだけれど、とにかく『E.T.』におけるピザはとんでもないカルチャーショックだった。

そしてぼくがハリウッド大作に映し出された「アメリカの日常」でかっこいいなあ、あこがれちゃうなあ、と思った最後の映画がキアヌ・リーブス主演の『スピード』であり、SWAT隊員のキアヌが購入する「サブウェイ」のサンドイッチだった。

なにがかっこよかったのか。なにに驚いちゃったのか。もちろんサブウェイのシステムにもあこがれたのだけれど、この映画の中でキアヌ・リーブスは「ミートボールのサンドイッチ」を注文していたのだ。

ミートボールといえば、ケチャップ味のソースにまみれた肉だんごである。それをサンドイッチに挟む? ハンバーグでもなければハムやベーコンでもなく、ミートボールを? そのさまがどうにもアメリカンでかっこよく、ぼくは猛烈にあこがれていた。

しかしながら現在、日本のサブウェイでミートボールは販売されていない。むかし好きだった「シーフード&クラブ」も、もう発売されていない。そしてこれが致命的なのだけれど、この季節に食べるサブウェイはちょっと冷たい。サンドイッチという商品の特性上、そうなるのも仕方がないとは思うのだけれど、ちょっと身体が冷えてしまうのだ、この季節のサブウェイは。


なんてことを言いながらこんな話をしているのは今日の昼飯をサブウェイにしたからで、ひさしぶりに食べるそれはとてもおいしかった。

ミートボールとシーフード&クラブ、復活してくれないかなあ。