犬は吠えるが狼は吠えない。
いつだったかのドキュメンタリー番組で「狼は吠えない」と知った。
わおーん、の遠吠えはする。がるるるる、の唸りはする。きゅーん、と鼻を鳴らすくらいはあるのかもしれない。けれども野生の狼たちは、犬のようにわんわん吠えることが、ないのだそうだ。これはちょっと、おおきな驚きだった。
ぼくの理解が間違っていなければ、犬とは狼を祖先にもつ動物である。むかしむかしの人間たちが野生の狼を飼い慣らし、より自分らと一緒に暮らしやすいように世話やら交配やらを重ね、やがてそれらは犬と呼ばれる生きものになった。人間がいなければ、犬は存在しなかった。
そんな犬は、狼から犬へと分化する過程で「わんわん」を手に入れた。狼としてのんきに暮らしているうちには不要だった能力を、手に入れた。
なんのために? そして、誰のために?
人間のためだ。人間と、コミュニケーションをとるためだ。彼ら犬たちはぼくらのために、あんだけ必死にわんわんしてるのだ。
きのう、興奮したうちの犬がぼくの顔を見ながらわんわん吠え立てた。
触ろうとすれば逃げ回り、離れたところでまたわんわん吠える。「吠えられた!」と思うと悲しかったり腹が立ったりもするけれど、「なんかおしゃべりしようとしているんだな」と思うとうれしくなる。
問題は、近所迷惑だけだ。