見出し画像

ふたりの編集者との会話。

あなたはいま、疲れている。

はじめてそんな指摘を受けたのは、いまから十数年前、2006年のことだった。記録を見るとその年、ぼくは15冊の本を書いている。そこに加えて5冊ほど、つまり年間20冊ぶんの仕事を入れていた。それ以外の働きかたを知らなかったし、ベストセラーといわれるような本を何冊も手掛け、おおきな企画も舞い込み、たぶん売れっ子になっているような錯覚もあった。

そんな矢先、ひさしぶりに取材で同席した編集者から「あなたはいま、疲れている」と指摘された。マジでもう大変なんっすよー、わはは。なんて笑っていると、「冗談ではなく」とクリニック行きをすすめられた。たしかに彼は、冗談を口にするような人ではなかった。

いろいろあってぼくは入れていた仕事を複数キャンセルし、1か月ちょっとの休みをとった。


きのう別の編集者から、ひさびさに同じ台詞を聞いた。まじめな顔で「あなたはいま、疲れている」と指摘された。言われてみれば、疲れているような気もする。2週間ぶりに会った彼は、打ち合わせするぼくの返答が遅い、と言う。そしてそもそも、ここ最近の古賀さんはあきらかにおかしい、と加える。「ここ最近」とはきっと、この note を読んでいてそう思っていたのだろう。

疲れた人の書いたものを読まされると、こちらまで疲れてしまう。いつの間にかぼくは、誰かを疲れさせていたのかもしれない。


けれどもその疲れは、まだ軽微なものだったのだろう。

解決策のように彼は「寝ましょう!」と言った。読みたい本とか漫画とか、いろいろあるかもしれませんが夜はちゃんと寝ましょう、と言った。

まあ、そうだよね。ここんとこずっと、睡眠がとれてなかったもんね。

同意するぼくに彼は「そして、原稿のペースを上げていきましょう!」とけしかけてきた。「合宿するなら、いつでも行きますよ」と。



彼の名前を、柿内芳文という。