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仕事が好きなのか、よくわからない。

仕事とは、不思議なものだ。

ぼくの仕事をおおきくわけると、たぶん「訊く」と「書く」のふたつをやっていることになる。ちいさな会社なので、経理っぽいことも多少はぼくがやらざるをえないのだけど、まあ仕事の大半は「訊く」と「書く」だ。

「訊く」については、年々フットワークが軽くなっているというか、あのひとにもこのひとにも、もっともっといろんなこと訊きたいなあ、になっている。取材を前にして、必要以上に緊張することも、もうなくなった。明日あのひとに取材して、と依頼されても、まあたのしく取材するんだろうな、と思える。

ところが、問題は「書く」だ。

いつのまにか、書きはじめるまでの時間が遠大なものになってきた。まだ書きたくないなあ、といつまでもぐずぐずし続け、名状しがたいストレスやプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、書きあぐねる時間が増えてきた。


一冊の本を書くことは、潜水夫の仕事に似ている。

酸素ボンベもなにも背負わないまま、光も届かないところへ、水圧と水温にやられてまともに身動きもとれない深部へ、自分の肺活量を信じながら、ひたすら深く潜っていく。潜れる距離が深くなるほど、ふたたび「あそこ」に行くのがこわくなる。けれども「あそこ」まで行かないと、もっと深くまで行かないと、仕事の実感が得にくくなる。


働いてる時間だけで考えると、とんだワーカホリックなんだけど、「書く」ことが好きなのかどうかは、最近よくわかんなくなってきたなあ。

ただただ「こわい」ですよ。本を一冊書くことは。