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あるお店の前で撮影した一枚の写真

「へっ、うまいこと言ったつもりか!」という悪口がある。

誰かがなにか気の利いたジョークを口にしたとき、駄洒落を口走ったとき、きれいにまとめたとき、いろんな場面で使われる悪口だ。さほど憎悪がこもったことばではないものの、一定の軽蔑が含まれた文句だと思う。たしかに「うまいこと言ったつもり」のひとに対する苛立ちみたいなものは、ぼくも理解できる。

一方で、日本人にはユーモアが足りない、という話もよく耳にする。政治家のスピーチからアカデミー賞やグラミー賞の受賞あいさつ、あるいは経営者の決算報告に新商品プレゼンテーションまで。欧米人の多くは気の利いたジョークを口にし、それを見るぼくらも「さすがだなあ。日本人とは違うなあ」と感心する。

この差はいったいどこにあるのだろう。

たとえば、携帯電話会社の社長さんがみずからの頭髪に絡めたジョークを口にする。ここではたぶん、列席者から笑いが起こるだろう。しかし彼が、ライバル会社の批判を絡めたジョークを口にしたとき、あまり笑いは起こらない。むしろ、調子に乗るなハゲ、な思いが列席者の脳内を駆けめぐる。自分を貶める類いの冗談は許され、他人を貶める類いの冗談は許されない。当たり前じゃないか、と思われるかもしれないけど、この「空気」は意外と面倒くさい問題をはらんでいる。

誰かを傷つける類いの冗談が禁止されると、ひとは「誰も傷つけない冗談」を口にするようになる。

駄洒落だ。

しかし駄洒落を嫌うひとは多く、とくに中高年男性がそれを口にしたらば「オヤジギャグ」との烙印を押される。誰も傷つけない、安全すぎる冗談は、それはそれで軽蔑の対象なのだ。「うまいこと言ったつもりか!」なのだ。


といった話を書くきっかけとなったのは、数年前に撮影し、きょう久しぶりに発見した一枚の写真だ。なぜかむかむか腹を立てたぼくは、そこに至った理由をあれこれ考えた。でも無理だった。

ムカツクものはムカツクのである。