スクリーンショット_2016-06-06_19.48.05

あなたはゴーストライターなのか?

ぼくが普段やってる仕事を、どう説明すればいいのだろう?

いま募集をかけている関係で、ふと考えた。出版業界に詳しい人には、とくに説明する必要がない。「本のライターです」といえば、それで通じる。けれどもそうでない大多数の人たちに説明するときには、けっこうな確率で誤解を招いてしまう。

なるべく簡潔に書くと、ぼくは著者となる方に長時間のインタビューをおこない、その内容をもとに原稿をまとめて一冊の本にする、という仕事に従事している。著者の側からいえば「語り下ろし」というタイプの本であり、ライターの側からいえば「聞き書き」というタイプの本のことだ。

当然、こちらがまとめた原稿は著者の方が、大枠の主張から文体、そして事実関係の間違いまで、綿密にチェックする。「おれはこんなこと言ってないよ」とか「これは言い過ぎだよ」とか、「ここはもうちょっと強調したい」などのご提案をいただき、ライターによる「盛り」と「漏れ」がないようにする。


こういう自分の仕事のことを、ぼくはいつも「拡声器」にたとえる。

世のなかで見過ごされている、もっともっと知られるべき声(そういう声は、たいてい小さい)を拾い、ライターという拡声器を通じておおきな声に増幅する。そして遠くまで、たくさんの人びとのその向こうまで、届ける。もちろん生の声とは違う。増幅された声にはエコーがかかっていたり、ひずみが生じていたりはあるだろう。けれども、マイクロフォンを通じた声が本物であるように、エレキギターの音が本物であるように、きっとぼくらの届ける声も本物になれるだろう。


……そんなふうに説明しようとすればするほど、もしかしたら自分がおおきなウソをついているんじゃないかという不安に襲われる。


映画『FAKE』を観た。

彼の騒動があったとき、ぼくにも「ライターの立場からゴーストライター問題について語ってください」という依頼が届いた。迷った挙げ句、取材はお断りした。


さて。


「あなたの職業はゴーストライターなのか」?


訊かれれば、ぼくは違うと答える。自信を持って否定する。自分の仕事を、何時間でも何日間でもかけて説明する。

しかし、「あなたという人間は本物ですか?」と訊かれたら、ぼくはどう答えるのだろう。

「Yes」と答えれば、そこでぼくは「fake」に転落するのだ。


あらゆる人は本物ではなく、偽物でもない。