選ばれし者どもの1週間。

よのなかには、これは経験者にしかわからないだろう、という感情がある。

きのうのサッカーW杯ロシア大会準決勝、フランス対ベルギーを観ながら、ぼくはある感情を思い出していた。試合中ではなく、試合後ではなく、試合前の中継映像を観ながら、ぼくは18歳の自分を思い出していた。

数少ない杵柄のひとつなので前にも書いたことがあると思うけれど、ぼくは高校3年生のとき、サッカー部で県大会優勝を果たした経験をもっている。しかもインターハイではなく、サッカー少年のあこがれである高校サッカー選手権大会での、福岡県大会優勝だ。残念ながらベンチメンバーではあったものの、それはそれはうれしく痛快な出来事だった。

この「高校サッカー選手権」という大会は、5〜6月に開催されるインターハイが終了した後、8月から地区予選がはじまる。そして10月に県大会(ベスト16)に突入して、11月の初旬に決勝戦を迎える。全国大会がおこなわれるのは翌年の1月だ。ふつうに高校生活を送られてきた方々からは「受験はどうするんだ?」との疑問が浮かぶだろうが、どうもしない。できるはずがない。勝てば勝つほど受験がヤバくなる、人生のアディショナルタイムみたいな大会である。

さて。うれし恥ずかし初優勝を果たし、全国大会に向けて練習に励んでいた12月のあるころ。重大な事実に気がついたぼくは、ひとりあたまをくらくらさせてしまった。


「ああ。いま、このときに、福岡でサッカーをやってる高校3年生って、おれたちだけなんだなあ。ほかの3年生たちはもうみんな引退して、受験勉強したり、彼女と遊んだり、不良をしたりしてるんだなあ」


きつい、いやだ、やめてくれ。なんなら監督、消えてくれ。さんざん文句を言いながらやっていた練習が、かけがえのない時間に思え、誇らしい勲章のように思え、にやにやしながら見上げた曇り空を、いまでも鮮明に憶えている。あそこから全国大会の初戦敗退までの約1ヶ月間、ぼくはずっと夢のなかにいたようなものだった。

きのうの試合前、観客席に映るフランスやベルギーのサポーターたちを見て猛烈にうらやましかったのは、彼らにとってのW杯がまだ続いている、という事実だ。

メキシコの青い空も経験し、ドーハの悲劇も経験し、そこから6大会連続のW杯出場という経験を踏んでもなお、ぼくらはベスト8やベスト4の風景を知らない。あのヒリヒリした毎日が、サッカーのこと以外なにも考えられないくらいに濃密な毎日が、勝利を重ねるたびに増えていく「生涯忘れることがないだろうゴールシーン」が、いまもまだ彼らのなかでは現在進行形のこととして続いているのだ。その毎日は、どんなにうれしいものだろう。どんなに誇らしいものだろう。どんなにキラキラしたものだろう。

日本の敗退が7月3日で、考えてみればたったの1週間なんだけどさ。その「選ばれし者どもの1週間」を過ごしてみたいって、本気であこがれちゃったんですよ。

壁に耳ありジョージとメアリー。
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古賀史健

古賀史健(2018)

古賀史健の note、2018年分です。
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