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ははとむすめと少女漫画

我が家の本棚の一番下の観音扉には、母の宝物がたくさんつまっていた。古びて茶けたページの感触と、おばあちゃん家の香りが未だ残る、百冊を優に超えるたくさんの「少女漫画」たち。初めてそれを見つけたときは、母の秘密を覗いたようでドキドキした。『王家の紋章』『ガラスの仮面』といった現在まで続く大名作や、『はいからさんが通る』の大正浪漫、『有閑倶楽部』のウィット。小学生のころの私は、母に黙って部屋に籠っては、片っ端から蔵書を漁った。

しばらくしてそれを知った母は胸を張り、「私が小学生から読んでいる漫画が、今でも続いていたり、読まれたりしているっていうのはすごいことでしょ」と自慢げだった。10歳の母がお小遣いで買ったという『ガラスの仮面』の1巻(初版)についている擦り切れたブックカバーが、母も昔は小学生だったのだと私に初めて気づかせた。

難しそうだと後回しにしていた萩尾望都、くらもちふさこを勧められたのは中学生のときだ。くらもちふさこは母の一番好きな漫画家で、どの作品のヒーローが一番かっこいいか日々議論した。『いつもポケットにショパン』のきしんちゃんみたいに、ピアノに愛されてみたいとめちゃくちゃにピアノを弾いてみせたら笑われた。『天然コケッコー』の実写映画を一緒に見て、大沢くんを演じる岡田将生の美しさにハマった。

「私の理想の男の子は、『おしゃべり階段』のヒーローの『線』だね」
くらもち作品について語るとき、母はいつでもちょっとはにかんでそう話す。ヒーローたちに憧れていた学生時代の母。成長して、彼らとは似ているのかよくわからない父と出会って結婚した母。そしてバブルが弾けて生まれた私。子供の私が母の漫画を開く。母の理想の彼らは、今でも漫画の中に生きている。

エドガー派かアラン派かと争った『ポーの一族』は今年40年ぶりに続編が描かれて、Twitterでそれを知った私は漫画を買った。エドガーは相変わらず格好良かった。私の下宿の本棚には、自分用に新しく買った萩尾望都、くらもちふさこ作品と、自分で新たに知った漫画がたくさん並んでいる。くらもちふさこの『花に染む』に影響されて大学で弓道を始めた私も、気づけば母が父と出会った歳に近づいている。私が「母」になるにせよならないにせよ、私の蔵書を読んで私の、そして母の憧れをもう一度なぞってくれる存在がいたら、きっと私は、母は、彼らは、嬉しいだろうと思う。

#ははとむすめ #少女漫画 #はいからさんが通る #ポーの一族 #くらもちふさこ


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