見出し画像

藤井風『花』MVテーマは"分からない"?!

 2023/11/19 OSAKAN HOT 100 1位『花』。藤井風さんがリモートインタビューで『花』のMV撮影中と言っていたから、てっきり『いちばんすきな花』の最終回後に公開するもんだと思ってた。編集してないの?という早業で驚いたけど、めっちゃきっちり編集されたMVで、何が何だか分からないままその日のうちに繰り返し観た。そして、この「分からない」感じは出したくて出しているのかなとも思った。


 まず冒頭の大好きな「タタタタタン」で登場した木。枯れているー。でもなんだか生きてるみたい。髪の毛を逆立てて両手を挙げてる人のようにも、空に根を張っているようにも見える。確実にこの土地で生きていた木。この木、偶然見つけたとしたら奇跡だな。雲ひとつない真っ青な空と荒涼たる大地。境界線が曖昧なのもこの歌の世界観に合ってる。

まるで人みたいな木

 舗装されてない蛇行した道。…人生みたい。後ろに地平線。少し地球の丸みも感じられるほどなんにもない。でも、本当になんにもない場所にも設定できたはずなのに大きな木が2本。こんななんにもないところに木があるときっと嬉しくなる。「あの木があるところまでがんばろう」というような目標にもなる。心の拠り処、木陰で体も休められる。風くんの場合、御両親かな。それにしてもここはどこ?リモートインタビューで「なんとか地球にとどまってる」みたいに言っていたように、どこでもないような非日常感。

風くんの何倍もある大きな木が2本

 やっと現れた風くんもなんだかいつもと違う。男性がどちらか片耳だけにピアスをする場合、左耳にするのが一般的だそう。右利きの人は右手に剣を持ち、左側に女性を置いて守るのだとか。そんな意味があるのかないのか…とにかく、風くんのしなさそうな髪型、服装、アクセサリーという感じで、これまた非日常感。ここはどこ?この人だれ?という感じ。

美しいけどなんか違う感じ

 え?何引っ張ってるの?!なになになに?!…と思ったら引っ張るのやめて踊り出す(笑)まぁ、いつもいつも必死にがんばってばかりはいられない。踊ったり休んだりも必要。いや、ちょっとまだイントロだけど。

 ここ、イントロ最大の衝撃映像。風くん死んでるの?!どういうこと?…でも、一生のうちで一番たくさん花をいただくのって亡くなった時かも。お葬式は溢れんばかりの花に囲まれる日でもあるのか。そして実際にヨロヨロしながら引っ張ってるのはずっずさん(笑)めっちゃ屈強な助っ人さんもいらしたけど。(Instagramより)

 
 「枯れていくー」と歌い出した棺の中の風くんを見てホッとした。MVだと分かっててもドキッとした。「枯れていく」風くんと「咲いている」風くん。先立つ人と先立たれる人か。そういえば、喪服のような黒装束。でも、こうして歌っていると死んでいるのか生きているのか分からない。生死の境も曖昧にしているのか。

棺を引く方も引かれる方も涼しげな笑顔

 「全ては溶けていく」の歌詞の通り、両方の風くんが映し出される。「生まれゆくもの死にゆくもの全ては同時の出来事」(『まつり』より)ということか。

 棺の蓋を閉めながら「何ができるのだろうか」…これは生きている人間が生きているうちに何をすればいいのかということを思いながら死者を見送っているのかなと解釈しながら観た。

 亡くなった人へ思いを馳せるように「みんな儚い」

 「みんな尊い」で初めてこちらを見る風くん。これは私たちへのメッセージかな。ドラムの音とドアを閉める音がぴったり合って気持ちいい。

 最初っから車で運べよというツッコミは置いといて、ここからいよいよエンジンかかるよ、飛ばしていくよというサビ。車で運んだら簡単にたどり着くけど、速すぎて見えないこともあるのでは。外見だけカッコつけて(いや、本当にカッコいい)ても、小わきに抱えた(内面の)花がしわしわに萎れていたのでは「内なる花」は見つけられない。

 そもそも「永遠に変わらぬ輝き」なんてあるのか。あっても手に入れたら幸せになるのか。車を手に入れたら速く遠くに行けるようになり、もっと速くもっと遠くにと欲が深くなる。その結果、幸せからは遠ざかる。

 幸せは自分の中にある。自分の心で感じるものだから。それに気づくには自分を「信じ」たり「感じ」たりすることが大切。身近にある小さな幸せはそれを感じられるかどうかにある。

 ここで車がこちらへ向かってくる。「内なる花」はどこかに探しに行くのではなく、自分の中に咲かせるものだよと教えてくれているようだ。

 第二の衝撃映像は「タッタラッタ」のシーン。遺影の中で口ずさむのは棺を引っ張っていた風くん。こっちが死んでたんかーいと頭が混乱する。いや、それともこれは死後の世界か。黒風くんは「この世」の風くん。花風くんは「あの世」の風くんということか。

 死後の世界にて、あの世の風くんが活動開始。この風くんはハイヤーセルフかな。いい意味でこの世のものとは思えない。妖精か天使か。人間離れした、性別も感じさせないような、とにかく鮮やかで美しい存在。

 ここはまさに祈りが込められていく。荒野なのに美しい。

 ここからは歌詞にある通り。お気に入りのショットを残しておく。

惑わされとります
発光しているよう

 お葬式を思わせるシーン。白い鳥が一斉に飛んでいくところは、『帰ろう』MVで赤い風船が一斉に空に舞い上がるシーンのように、亡くなっていく多くの命を表しているのかな。今この瞬間も多くの命が失われ、そして新たな命が芽生えている。遠いどこかのことではなく、人は必ず死ぬ。自分のこととして意識することが今を大切に生きることにつながると思う。

神々しい

  Teaserにも使われていた映像。大画面で観ると月がハートの形に見える。

 この焚き火の真ん中にもハートがあるように見える。

 第三の衝撃映像。顔のない人(?)が踊りだした。怪しい美しさ。燃え盛る炎の映像が交互に入り、火葬を連想させる。


 ラスサビ前のドラム音に合わせてダッダッと腕を広げるところ大好き。コレオグラファー Shingo Okamoto さんの音はめが気持ちいい解放感溢れるダンス。

 肉体がこの世からなくなり、全てから解放されたような弾ける笑顔。死んだことが(記憶に)ないから分からないが、「死」は人生で最も大きな快感が得られる瞬間なのではないか。もう叩かれようが焼かれようが痛くないし、誰かに傷つけられることもない。肉体を失う代わりに完全なる自由が手に入るのではないか。『いちばんすきな花』で、潮ゆくえが「何かが終われば何かしら次が始まる」と言っていたが、「死」もまた、終わりであり始まりなのではないか。

 Michael Jackson『スリラー』のゾンビダンスを連想させる死者の舞。死んだ命が躍動感溢れるダンスをするという、これまた非日常感。生ききったことへの祝福の舞。

 月も手中に?!

 これはHEAT『旅路』と『grace』MVのラストを思い出す。「永遠なる光の中 全てを愛す(『旅路』より)」瞬間か、「あたしに会えた(『grace』より)」のか。

 「内なる花」が花開く瞬間のような恍惚状態に見える。

 炎を中心に5人が花びらのように舞っている。自分の中に「内なる花」はあるよと言うように力強く胸を叩くシーンは、ダダダンに合わせた手の動きがキレキレで気持ちいい。自分の中にあるのになかなか咲かせられないのが「内なる花」。頭では分かってるけど気持ちが追いつかない、行動に移せないこともある。後悔したはずなのに同じ失敗を繰り返すこともある。それでも諦めず、自分を大切に人を大切にしていけば身近な幸せに気づけるようになると思う。自分を信じて、小さな幸せを感じていこう。そんなことを思い出させてくれる『花』のMVだった。

 アウトロに入った時に昼間になる。天国へ向かっているのか。このダンスもキレキレで美しい。

 そして最後も衝撃映像。めっちゃ元気に踊るから復活したのかと思ったらやっぱり死者だったのね。生死の境界ははっきりさせなくてもいいのかも。また帰ってこられるのかも。「生きてきた意味なんか分からないまま」(『帰ろう』より)、「何か分かったようで何も分かってなくて だけどそれが分かってほんとによかった」(『きらり』より)ってことかな。生きる意味なんて簡単に分かってもつまらないし、分かったからといって思うようになるものでもない。分からないことだらけだけど、朝目覚めて生きているというだけで奇跡。枯れていく今この瞬間も、私の命は咲いている。それに気づけただけでいいのかな。気づかせてくれてありがとう。
※『鬼滅の刃』についての記述削除しました。(『鬼滅の刃』の鬼は日が沈むと消えるのではなく、日が昇ると消えてしまいます。)

※2023/12/1 追記 「この宇宙最大の軌跡は朝目が覚めること」という言葉がYouTubeから流れて驚いたので貼り付けさせていただきます。これこそ奇跡。


 「藤井風と花」について書こうとしていたころ、『いちばんすきな花』主題歌のオファーがあったということをずっずさんのダイアリーで知り、とてもご縁を感じています。本当にこの歌が大好きで、MVも大好きです。MESS監督の描く色彩豊かな世界はまさに『花』。ありがとうございます。そのときのnoteも貼り付けさせていただきます。


※2023/12/3 追記 この「分からない」感じに一役買っているのが、MVに歌のタイトルが表示されないということかもしれません。これはMVという枠を超えた作品になりそうな予感。タイトルの件のみ書いたnoteを貼り付けさせていただきました。もしよかったらどうぞ。


※2023/12/24 追記 ドラマ『いちばんすきな花』最終回に風くん登場。その様子をInstagramにアップしてくれた。"これは幻だったのか…どっちが現で、どっちが夢だったのか、どっちでもいいんじゃない?"という言葉が添えられている。人の価値観は人それぞれ。価値観が同じ人なんてきっといない。答えも一つとは限らない。だから人間関係は難しい。自分が正しいと思ってしまうと、自分と違う価値観を受け入れられなくなり、ひどい場合は攻撃したり排除したりしてしまう。相手の考えに耳を傾け、こちらの考えも伝え、話し合ったり譲り合ったりしながら心地いい関係を築いていけたらいいなと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?