別冊 みんなの小説講座
別冊 みんなの小説講座
#001
『一人称で小説を書くには』
一人称の小説『上段高校 重音部』の解説
アキツ フミヤ
通常の『みんなの小説講座』とは違って、この別冊では、私の作品『上段高校 重音部』を例に、一人称で小説を書く場合について解説します。
発想・キャラ設定・舞台設定・あらすじ。さらに、どのようにしてストーリーを書いたのかを話したいと思います。
現在、『上段高校 重音部。一学年(前半)』を発売中です。
有料(490円)ですが「1話」~「5話」までは無料で読めますので、先に読んでおいてください。
この作品は『みんなの小説講座』で、教材として使用します。無料の部分を読んでみて、もし気に入ったら購入して読んで下さい。一人称で小説を書く場合の参考になると思います。
「発想」
この作品を書いたのは、7年ほど前、あるネットニュースの記事を目にしたのがきっかけです。
記事の内容は、次の通りー-
『A高校は共学なのに、創立以来、女子生徒しかいなかった。そこに今年の春、初めて男子生徒1名が入学した』
これって、ひどく興味をひかれませんか? 女子高同然の高校に男子が一人だけ入学するとは、何て勇気のある男子なのだろうと思いました。
当時、この記事はネットでも話題になり、様々な意見が出ていました。
「顔がいい、頭が良い、スポーツが得意など、その男子生徒に何か優れた点があれば、女子生徒にモテて学園生活は天国となるだろう。でも、そうでなければ女子生徒から避けられて地獄になるかも」
これがネット民の出した結論でした。
そして、このニュースから面白い話が書けるのではないか、と思って小説にすることにしました。
あらすじは、次の通りです。
(あらすじ)
上段高校は、男女共学にも関わらず女子生徒しかいなかった。創立50周年目のこの春、初めて男子生徒3名が入学する。
その一人が僕だ。僕は小学5年生までは天才バイオリニストと呼ばれていた。しかし、両親の離婚や大事なコンクールでの失敗によるトラウマから、バイオリンを弾くことができなくなっていた。
以来、女子とは目を合わせて話せないほど、内気な性格になり、暗黒の中学時代を過ごしてしまった。男子からはイジメに会い、よくケンカをした。
上段高校を選んだのは、偏差値70のお嬢様ばかりで、少なくとも暴力沙汰になることはないと期待したからだ。
ところが、6000人の女子は、男子3人に対して、興味本位で、あれこれとウワサを立てる。女子たちの監視の下、男子は息をひそめるように生活しなくてはいけない。
男子3名は、全員、音楽の才能に秀でていたので『重音部』を立ち上げ『MARS GRAVE』というロックバンドを結成する。僕はエレキギターが得意だ。
そこに入部してきた女子に、僕は生まれて初めて恋をする。それも二人同時にだ。
(以上、あらすじ)
男子を3人にしたのは、個性ある男子を揃えたかったからです。さらに、魅力的な女子2名が入部してきたことにより、バンド内での恋愛物語が始まります。
ブログに、毎週、1話ずつ連載していたので、1年でかなりのページ数になりました。それを3年間、続けました。主人公が入学してから卒業するまでの3年間、私も同じ年月を共有しながら書いていました。
「ストーリー」作りのコツ
いつくかの高校の年間予定表を参考にしながら「今は体育祭の時期だから、それに関する話を書こう、とか。今は期末試験の時期だから、テストの話にしよう」などと話を作ることにしました。
この高校独自のイベントも用意しました。『一学年(後半)』では『雪中行軍』などの学校行事も出てきます。これは真冬の山の中を一泊二日で歩き切るイベントです。
このイベントの最中、主人公とバンドメンバーの女子一人が、コースを逸れて遭難するアクシデントが発生します。好きな女子と二人だけで危機を乗り越えなくてはならない状況で、主人公がどう行動するのかも描いています。
舞台背景
東京の多摩地区にある架空の上段市が舞台です。
上段市は、上段高校と共に発展してきた学園都市なので、街中に高校の校舎が点在しています。
『上段高校 重音部。一学年(後半)』で触れますが、この学校の設立には、様々な軋轢や思惑があり、当初は手探り状態でのスタートとなりました。
しかし、それからは市や大企業と手を組んで発展して行き、創立50年経った現在、大規模施設を有する巨大な学園都市となっています。
学校内に大規模なコンサート会場が3つもあり、主人公たちのバンドがコンサートを行う様子も書くことにしました。
高校が運営するネットテレビ局もあるので、主人公たちも自分の番組も持って出演するシーンもあります。
「学園ドラマ」+「恋愛ドラマ」
もちろん、主人公と『重音部』に入部した女子二人との恋愛模様も描いています。同時に二人の女子を好きになったので、主人公は三角関係に悩むことになります。この辺は楽しくもスリリングな展開にします。
不倫をして家を出て行った父みたいになることを恐れながらも、二人の女子から一人を選べない。そんな複雑な主人公の感情を描いています。
こんな感じで書き続けて、何とか主人公の卒業まで書き終わることができました。最初は、どこまで続けるのか決めていませんでしたが、3年に渡って書くことができました。
アイデアの探し方
小説を書きたいけど、何を書いていいのか分からない。面白いアイデアがないという人は、ネットや雑誌などでネタを探すといいと思います。
テレビだと、大きなニュースしか扱っていませんし、大勢の人が見ているためネタが被る恐れもあります。
自分独自のニュースソースを持ちましょう。そして、興味ある記事を見つけたら、小説にできないか考えてみましょう。
私は雑誌のサブスクをしているので、毎週、様々な分野の雑誌を片っ端から読んで役立てています。
たとえば、女性のファッションには疎いので、ファッション雑誌も読んで参考にしています。有名なオカルト雑誌は若いときから読んでいるので、宇宙人との遭遇事件、秘密結社、心霊、呪術、科学では解明されていない事などに関しても詳しくなりました。
アニメなどを観ていると、オカルト的な話は必ずと言っていいほど出てきますよね。こういう知識は、小説・ラノベを書く上では必要不可欠ではないでしょうか。
「ストーリー力」を鍛えよう
マンガ・小説を書き始めたら最後まで書くようにしましょう。途中まで書いたけど、書けなくなって放置している作品はありませんか。それは「ストーリー力」が未熟なせいです。
プロ作家の場合、締め切りがあるので、必死にアイデアを絞り出して連載を続けています。
「ストーリー力」を鍛えるには小説を読むことも重要ですが、マンガ・アニメ・ドラマ・映画などからも学ぶことは多いと思います。
今、最も人気があるのはアニメですよね。最近の作品は世界中で放映されヒットしています。人気作品はチェックしておきましょう。
常に作家の目を持って、ストーリーを分析しながら読んだり見たりするようにして下さい。次は、どうなるのかストーリーを予想しながら見るようにしましょう。
私は、シナリオの修行をしていたとき「セリフ」に関しては、ドラマ・映画などを視聴中、相手の言葉に自分ならどう答えるのか考えながら見ていました。
一人称で小説を書くには
『みんなの小説講座』の「ダメな例文」の書き直しは「三人称複数視点」で書くことになっています。
それに対して『上段高校 重音部』は「一人称」で書いています。
一人称と三人称の違い
一人称だと、主語は「私は」「俺は」「僕は」など、となります。
三人称だと、主語は「クロノスは」「ラムジンは」など、人名がきます。
一人称で書くときの注意点
一人称だと、視点は常に主人公にあります。主人公と同化していると言ってもいいでしょう。
三人称だと、視点は主人公と同化したり、やや離れたりします。
一人称の場合、主人公の妄想とか、心理などを丁寧に「描写」するようにしましょう。小説なので、誇張して書いた方が面白いと思います。
『上段高校 重音部』の主人公は男子高校生なので、妄想をどんどん膨らませてみました。
『上段高校 重音部』の登場人物
ネットニュースでは、男子生徒1名が入学したとなっていましたが、小説では男子生徒3名が入学したことにしました。
男子3人の性格設定
主人公である倉見は、女子高生が怖い内気な性格。
宮山は、イケメンで見た目は不良っぽい感じだが男気のある男。
橋本は、真面目で几帳面な性格で、誰とでも仲良くなれる。
この男子3名を6000人の女子生徒の中に入れたら、どんな化学変化が起きるかが、小説のキモとなってきます。
さらに、2名の女子をバンドに加えることで、バンド内の恋愛関係をより複雑でスリリングな展開にすることができます。
(主な登場人物)
・倉見 涼
この小説の主人公。元天才バイオリニスト。女子が異常に怖いのだが、女子高同然の上段高校に入学してしまう。男子3人で『重音部』を立ち上げ『MARS GRAVE』というロックバンドを組む。
バンドでは、ボーカルとギター担当。
・宮山翔也
性格はチャラいが、男気のある奴。この高校ならハーレムが作れるとカン違いして、偏差値を25も上げて何とか滑り込んだ。
ボーカルとベース担当。
・橋本万両
落ち着いた大人のような性格。誰とでも、すぐに仲良くなれるという特技がある。日本中の方言を話すことができる。
編曲担当でDJとしてもプロ級の腕を持つ。
・門沢流海(かどさわ るみ)
真面目な性格の美少女。クラッシックを愛するピアニスト。
キーボードとボーカル担当。
・海老名(えびな)・サービス・エリカ
父親がニュージーランド人、母親が日本人のハーフ。ロック好きな明るい性格の美少女。
ボーカルとギター担当。
人物設定
一人称では、主人公の設定が重要になってくるので、細かいことまで決めておきましょう。家族のこと、これまでどんな生き方をしてきたかなどです。
主人公は、研究医の母親と二人暮らしで、外科医の父親は不倫をして家を出て行ったとしました。
このことが、主人公の心の傷となっていて、彼の性格にまで影響を与えています。
「文章力」を鍛えよう
小説って難しい文章で書かなくてはいけない、と思っている人はいませんか? だから自分は小説ではなく、簡単そうなライトノベルを書こうと。
そう誤解している人は、売れている作家さんの作品をよく読んで下さい。読者が読みやすいように、難解な表現や難しい漢字、語句などは、あえて用いないようにしているのが分かると思います。
「文章力を鍛える」というのは、やさしい文章で読みやすく、かつ面白い小説を書こうという意味です。自分勝手な文章ではなく、読者に配慮した文章を書くことです。
ただでさえ小説を読む人は減っています。逆に、ライトノベルを読む人は増えています。このことから分かるように、今の若い読者が求めているのは、読みやすい作品だと言えるでしょう。
さらに言えば、アニメ化しやすい作品です。アニメ化すると売上が大幅にアップするので、出版社もアニメ化に適した作品を求めています。
そんな訳で『上段高校 重音部』は、ラノベに近い文章で書くことにしました。かなり長い作品ですが、読みやすいのでストレスを感じることはないでしょう。
ターゲットに設定した読者層に合った文章で書くようにしましょう。年齢層を高めに設定した場合は、少し硬い文章でもいいのですが、読みやすいように工夫が必要です。
ストーリーを作るコツ
「あらすじ」を書いたことで、何とかストーリーを展開できるようになりました。
人物設定と舞台設定をしっかりしておけば、後は学校行事表に従ってストーリーを作っていくだけです。
入学当時、主人公は6000人の女子に怯えていましたが、二年生になって下級生が入学してくる頃には「重音部」の部長としての自覚が出てきます。
こんな感じで、主人公が人間として成長していく課程も描くようにしましょう。
自分の体験なども書く
『上段高校 重音部』では、女子高同然だった上段高校に、初めて男子が3名入学した、という設定でした。
実は、私の母校の場合、男子校だったのが、私が入学した年から共学になるという、小説とは逆の展開でした。だからこそ、このネットニュースを見たときに、ぜひ小説にしたいと思ったのです。
そして『雪中行軍』も、母校の学校行事として実際に体験したことです。小説の中ほどスリリングな話ではなく、実に地味で疲れる行事でした。その体験を基に、小説では面白い話にすることができました。
こんな風に、自分が体験したことを小説の中で書くと、よりリアルで面白いストーリーが書けると思います。体験したことをそのまま書くより、より面白いように脚色しましょう。
では、面白い小説が書けるように頑張って下さい。
別冊では、今後も小説を書くためのヒントを掲載していきます。
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『みんなの小説講座』を連載中です。
小説を書いてみたいという人は、ぜひ、こちらも、お読み下さい。
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