見出し画像

記憶のまた記憶





子供の頃


漠然と


どこかへ


"出かけてしまうともう家に帰れない"

みたいな


不安と怖さがあった。  



小学生の頃


林間学校で山へ行ったときに


"あの日"の


その記憶が鮮明に蘇り


ただ怖くて


わあわあ泣いてしまった。



理由も上手く説明できず


子供なので泣くことしかできない。




学校の先生が困り果て


母に電話した。


電話を渡され

「このままここにいたら死んでしまうから、迎えに来て欲しい。」  


と私が言うと



電話の向こうの母は


「うふふ。
寂しくなってしまったのね。
明日には帰るんだから。 
友達みんなと楽しんで来なさい。
それに、
そんな遠いところ。
お母さん迎えに行けないわよ。」


と笑いながら言って  


また、明日ね。と電話は切れた。




そのあと

どれくらい泣いたのか分からない。



部屋が暗くなっても


泣き伏せていた。



ドアが開き


「帰るぞ。」


と声がして


顔を上げると父が立っていた。

「荷物はこれだけか。」


とバッグを持ち


背を向けた


父の後について外に出た。



タクシーに乗った後


先生と父が話しているのが見えた。



話が終わったようで


父も隣に乗り込み


運転手さんに行き先を告げると


生い茂った木々の暗闇のなかの

行先だけが


ライトで照らされた。



光の後を追うように


タクシーがゆっくり走りはじめる。



父はなにも言わずに


寝てしまったようだった。


隣で私も泣き疲れて寝てしまった。




家のドアを開けると


「ええ!帰って来ちゃったの?」


と驚いた母が待っていた。




ふと思い出したが


記憶のまた記憶があるのなら


多分"あの日"も


こうやって迎えに来て欲しかったんだと思う。


"あの日"は


迎えに来てもらってから


だんだん思い出すこともなくなっていった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?