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084 じょじょに好きになるもの

ドアを開けたら、冷たい空気が頬を冷やしました。
ついこの前まで「暑いねぇ」と話していたのに、いつの間にか冬の粒たちがそこにいました。こんな風に、いつも次の季節は突然やってきます。

さむいさむい冬は苦手でしたが、冷たい空気を吸うと姿勢がしゃんと良くなる気がします。鼻からとおる新鮮な空気で体が清められるような。背中にすっと手をあてられるような。そう思うと、なんだか冷たい空気も悪くないね、と思いました。

こんなふうに年齢を重ねると好きになってくるものがあります。

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たとえばピーマン。
もともと、苦手ではありませんでしたが、好んで食べてはいませんでした。
母はよくじゃこと炒めたり、肉詰めを作ったりしていましたが、私はそういったピーマン料理が、正直なところあまり好きではありませんでした。お肉は普通にハンバーグにしてほしかったし、じゃこは少し炒って細く切った大根と合わせる方が好みでした。

あるとき実家でお腹がすいて台所に行くと、小鉢にピーマンとじゃこを炒めたおかずが入っていました。何気なくラップを外してつまんだら、とてもおいしいと思いました。少し食感が残っていて、ほろ苦くて。クセになる味でいくらでも食べられます。
これには自分でもびっくり。ピーマン料理を好んでいなかった自分と今の自分は同じはずなのに…。もしかして、どこかでだれかと口を交換しちゃったかな、と思いました。

とりあえず、試しに自分でもじゃこピーマンを作ってみました。
ごま油とお醤油とじゃこと細く切ったピーマン。
ささっと焼いて、ごまをふって食べると、やはり美味。
お醤油をすこし焦がしてしまいましたが、それもまた香ばしくて良いのです。
あらあらとお酒も進みます(でもそんなに飲めません)。

簡単でおいしくて、栄養もあって。
緑色もきれい。
これはうれしい発見でした。

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また、たとえば黄色。
私は黄色がどちらかというと苦手でした。
元気はつらつで明るいイメージの黄色。なんだかインドアでおたく、内向的なわたしには合わないなぁ、と思っていました。ひまわりとか、グレープフルーツとか、そういった黄色いものも少し苦手でした。

そのころは女性らしいイメージの桃色がすきで、持ち物もよく桃色のものを持っていました。ハンカチやシャープペンシルなど…目に入るとやさしい気持ちになれる気がして、色で迷ったらとりあえず桃色にしていました。

しかし、二十代半ばに入った春の日に桃色のカーディガンをはおって鏡の前に立つと、なんだか違和感を感じたのです。甘すぎるというか、ちょっとかわいらしすぎるというか…。心なしか顔色もくすんで見えたので、その日は着ませんでした。少しかなしい気持ちになりまました。

後日、洋服屋さんに行くと、黄色いカーディガンをすすめられました。
「お肌の色が明るくていらっしゃるので、淡い色が似合いますよ」
と店員さんが言ってくださったのです。
とてもうれしい言葉だったのですが、黄色かぁ…。というのが正直な気持ちで、でも着ず嫌い?は良くないかなぁとも思い、思い切ってきてみました。

すると、なんだか顔色が明るくなり、甘すぎず柔らかい印象になったのです。
パキッとした黄色でも、マスタードっぽい黄色でもなくて、穏やかな黄色だったのがよかったのかもしれません。

とてもうれしくて、そのまま購入しました。
黄色い洋服はその時が初めてだったのですが、意外と何色とも合うことがわかりました。
白いブラウスに合わせると春らしく、グレーを合わせてもやさしい雰囲気。
秋にはベージュやブラウンと合わせて、カジュアルな気分のときはカーキと合わせて。
これまで避けていたのがもったいないくらい、黄色が好きになりました。

そういえば、好物のたまごやきもレモンも黄色だしね…。
お部屋に飾るお花も黄色にしてみるととても明るくなります。
いまでは大好きな色です。

そして、もっと黄色を着こなす、素敵な女性を目指したいものです。
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こんな風に考えると、すきなものは確実に増えている気がします。
そして、すきなものが増えるのってうれしいことだなぁと思います。

ピーマンのお料理はただ今絶賛研究中です。
シンプルな焼きピーマンも大好物になりました。

会社の忘年会で焼肉屋さんに行くことになり、幹事の方がコースを選ぶ際に
「うーん、どのコースにしようかな。ふむもくさんは食べられないものはありますか?」
と聞いてくれました。私は内臓系がこわくて食べられないのですが、それよりも
「焼き野菜にピーマンがあるとうれしいです」
とつい言ってしまいました。聞いてくださった方は、はてなでいっぱいの表情になりました。私は、またやってしまった!質問に答えてない!と思ってわたわたしていたら、その方は笑い出しました。そして
「焼肉の話でピーマンが出てくるとは思いませんでした」
と言いました。
和やかな雰囲気になって、ほっとしました。

黄色いカーディガンは今もよく着ます。
ハンカチも黄色いものを購入してみたら、友人に
「かわいいハンカチね」
と言ってもらえて、ほくほくでした。

ちょっと苦手だと思っていても、その苦手意識がついたのが随分前ならば、もう一度挑戦してみるのも良いかもしれません。

ずっと同じ「私」で人生を歩んでいるつもりでも、なにか変わっているかもしれないからです。挑戦して「すき」が増えたら、なんだか得した気分。視野が広がって、楽しみも増えます。そして、人生がすこし豊かになった気持ちになります。

焼肉屋さんで内臓系を挑戦してみようかな…(ぶるぶる)。
ちょっとまだこわいので、この挑戦は将来のお楽しみにとっておきましょう。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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