カイコの吐く酵素 ~身を守るシルクの覆い~ 論文紹介

カイコの吐く酵素 ~身を守るシルクの覆い~ 

論文掲載年 2018年
掲載雑誌 Scientific Reports
論文タイトル Silkworms suppress the release of green leaf volatiles by mulberry leaves with an enzyme from their spinnerets
和文タイトル カイコは吐糸口から吐く酵素で桑のみどりの香りの放出を抑える
著者 Hiroki Takai, Rika Ozawa, Junji Takabayashi, Saki Fujii, Kiriko Arai, Ryoko T. Ichiki, Takao Koeduka, Hideo Dohra, Toshiyuki Ohnishi, Sakura Taketazu, Jun Kobayashi, Yooichi Kainoh, Satoshi Nakamura, Takeshi Fujii, Yukio Ishikawa, Takashi Kiuchi, Susumu Katsuma, Masayoshi Uefune, Toru Shimada & Kenji Matsui
論文へリンク https://www.nature.com/articles/s41598-018-30328-6#Sec27

カイコが吐き出す新しい酵素の働きについての2018年の論文です。
 植物は草食動物によって食べられてしまいますが、自分を守るための手段を持っています。わかりやすいのは葉や茎に棘がある、毒を持つなどがあります。これは草食動物から直接的に自身を守っていることになります。もう一つ、間接的に自身を守る方法があります。それは植物が草食動物の天敵を呼び寄せることで、身を守ることです。この場合の植物は、葉に傷がつく、つまり食べられた時に天敵を呼び寄せる香りを出します。今回の論文では、間接的に自身を守る植物(桑の葉)と、それに対する草食動物(カイコ)の対抗策の話になります。
 もともと、この様な間接的な方法が完全に機能していた場合、その植物を食べる草食動物は全滅してしまうだろうと考えられますが、現在までに草食動物はたくさんいます。ということは、草食動物には何かしらの対抗策があると考えられます。草食動物であるチョウやガの幼虫(いわゆるイモムシ)が、葉を食べた時に、葉から放出される香りを抑えていることは分かっていましたが、それがどのように香りを抑えているのか、実際に対抗策として機能しているのかについてははっきりとしていませんでした。
 今回の論文では、カイコを使って、植物が放出する香りを抑える仕組みとして新しい酵素を発見しています。また、実際に、香りと天敵の行動についても調べ、植物、草食動物、天敵の生態的な関係について明らかにしています。
 植物の自分を守る手段についても非常に興味が惹かれますが、それに対する対抗策についても更に面白いです。今までなかなか気づくことの出来なかった生き物たちの関係性について知ることが出来る論文になっています。

補足は論文には書かれていないことです。分かりやすくするために追加した文章になります。


この論文で分かったこと
・カイコの吐糸口から分泌されたしずくからBmFHDと名付けた新しいたんぱく質を発見した。
・このたんぱく質は桑の葉が生成するみどりの香りを抑える酵素として働く。
・みどりの香りを抑えることで、ヤドリバエによるカイコへの寄生が減る。
・カイコのBmFHDは、桑の葉によるみどりの香りを使った間接的な防衛に対する対抗策である。

[背景]

 これまでの研究から、いくつかの植物は草食動物に食べられると、その草食動物に対する肉食性の天敵をひきよせる事のできる、植物揮発性物質(HIPVs)を発生させることが分かっています。この揮発性物質によって肉食動物を引き寄せることが植物にとって有益であれば、植物揮発性物質を発生させることは草食動物から植物を間接的に守る手段と考えられます。この植物揮発性物質の中で、揮発性テルペノイドの生成は、草食動物による避けられない機械的なダメージと草食動物の分泌物の組み合わせに対する植物の反応として引き起こされます。(補足:テルペノイドは5つの炭素からなる化学物質を一つの単位とした天然物化合物のこと。)一方で、別の植物揮発性物質であるみどりの香り(GLVs)の生成は主に草食動物による機械的なダメージによって引き起こされます。しかし、みどりの香りの生成は草食動物の分泌物によって変化する場合があります。例えば、タバコスズメガはケチョウセンアサガオやコヨーテタバコのみどりの香りの成分の比率を変化させます。この変化はタバコスズメガのメスの産卵を抑えますが、予想外にもタバコスズメガの幼虫の捕食者を活発にさせます。(補足:産卵を抑えることで、同じ種でエサの競争を減らすことが出来る。)
 草食性の昆虫が食事中に分泌物を植物に塗りつけることは、植物がこの昆虫から自身を守ることを抑えている場合があります。例えば、シャチホコガの幼虫は溝を作るために酸を分泌し、それによって、トウダイグサの葉脈からの毒性の液の発生を物理的に抑えています(漫画参照)。さらに、幼虫の分泌物に含まれる化学物質が植物の防衛反応を抑えることが報告されています。アメリカタバコガとシロイチモジヨトウの幼虫は酵素であるグルコース酸化酵素を含む分泌物を吐糸口から吐き出し、植物の直接防衛を抑えています(漫画参照)。シロイチモジヨトウの幼虫のグルコース酸化酵素は、葉を食べた後に植物によって作られるジャスモン酸とエチレンを弱めることで、これによる防衛反応を抑えています。ハダニとミツユビナミハダニの唾液の研究からは、唾液に含まれるたんぱく質がサリチル酸による植物の防衛反応を抑えることが分かりました(漫画参照)。
 草食動物に食べられることで発生する、肉食動物を引き寄せる植物揮発性物質の生成は、草食動物にとって適応性を下げることになるので、草食動物には、そのような植物揮発性物質の生成を抑えて天敵からより目立たなくするための選択があると考えられます。いくつかの草食動物では、そのような植物揮発性物質の生成を抑えることが報告されています。ニセアメリカタバコガでは、吐糸口を持つ普通の幼虫がタバコの葉を食べると、吐糸口の無い幼虫が食べた場合よりも揮発性テルペノイドの発生量が少なくなります。アメリカタバコガの幼虫の分泌物は、コヨーテタバコから発生する、ある揮発性物質の生成を増やし、別の揮発性物質の生成を抑えます。モンシロチョウの幼虫の分泌物は、シロイヌナズナのみどりの香りの一部の生成を抑えます。これらの結果から、いくつかの草食動物は植物揮発性物質による間接的な防衛に対する対抗策を持っていると考えることが出来ます。しかし、直接的に植物揮発性物質を抑えている物質と、そのメカニズムは明らかになっていませんし、揮発性物質の変化が、昆虫と植物の関係性に与える生態的な機能については調べられていません。本研究では、植物である桑の葉、草食動物であるカイコ、カイコの天敵のひとつで寄生バエのひとつであるヤドリバエの三者からなる生態に対する、吐糸口からの分泌物の効果を調べました。

[結果]

カイコの吐糸口からの分泌物
 桑の葉を食べている間、カイコはしずくを吐糸口から分泌していました。カイコは食事をしながら休むことなく頭を前後に動かして、そのしずくから糸を紡いでいました(図1)。しずくは、吐糸口を物理的に刺激したときにも分泌されました(図2A)。走査型電子顕微鏡を使って、桑の葉のカイコが食べた断面を観察した所、その断面には糸が塗りつけられていました(図2B)。

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 この断面に塗りつけられた糸がどこから来たのかをはっきりとさせるために、カイコの5齢虫の吐糸口を注意深く焼き切りました(図2A)。この吐糸口の無いカイコと普通のカイコに桑の葉をあたえたところ、6時間以内に食べた葉の量に違いはありませんでした。つまり、少なくとも6時間以内では、吐糸口を無くしてもカイコが葉を食べることに対しての影響が非常に小さいものであることを示しています。吐糸口の無いカイコが食べた葉の断面を走査型電子顕微鏡で観察した所、糸はありませんでした(図2B)。

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カイコが食べる植物から発生する揮発性物質に対して、吐糸口を無くした場合の影響
 カイコに食べられていない桑の葉、普通のカイコに食べられた桑の葉、吐糸口の無いカイコに食べられた桑の葉それぞれから発生する揮発性物質を解析しました。食べられていない葉からは揮発性物質がほとんど発生していませんでした。普通のカイコ、または吐糸口の無いカイコに食べられた葉の両方から13種類の物質が見つかりました(図2C)。10種類の物質の量については2つの葉で違いはありませんでした。一方で、残りの3種類のみどりの香り((Z)-3-ヘキセン-1-ニル酢酸塩、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、(Z)-3-ヘキセン-1-ニルブタノン酸)の量は、普通のカイコに食べられた葉よりも吐糸口の無いカイコに食べられた葉で多くなっていました(図2C)。(補足:物質の名前の先頭についている(Z)は立体構造を示している。)これらのデータから、絹糸腺で作られ、吐糸口から葉の断面に分泌されるしずくが、この3種類のみどりの香りの生成を少なくさせていると考えられます。(補足:絹糸腺は吐糸口につながっている器官で、いわゆる絹の成分を作っている所。漫画参照

揮発性物質に対する寄生バエの反応
 ヤドリバエは、カイコを含むいくつかのチョウ目の幼虫に寄生する小型の寄生バエです。ヤドリバエのメスは通常の葉よりも人工的に傷つけられた葉に引き寄せられやすく、傷のある場所の近くに卵を産みつけることが知られています。このことは、ヤドリバエが機械的なダメージによって葉から発生した揮発性物質に反応していることを示しています。ヤドリバエの産卵行動に対する揮発性物質の量の影響を調べるために、普通のカイコに食べられた桑の葉と吐糸口の無いカイコに食べられた桑の葉から揮発性物質を集め、実験に使いました(図3A)。揮発性物質が無い場合では、ヤドリバエは産卵行動を起こしませんでした(図3B,C)。産卵行動を起こしたヤドリバエの割合は、普通のカイコに食べられた桑の葉の揮発性物質(30.4%)のほうが吐糸口の無いカイコに食べられた桑の葉の揮発性物質(65.2%)よりも低くなりました(図3B)。産卵した卵の数も普通のカイコに食べられた桑の葉の揮発性物質のほうで少なくなりました(図3C、漫画参照)。

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絹糸腺の抽出液によるみどりの香り生成の阻害
 葉が傷つけられた時に、みどりの香りはすぐに生成されます。絹糸腺に含まれるものがみどりの香りの生成に影響を与えるのかどうかを調べるために、絹糸腺の前部と中部前区からなる部分をすりつぶした溶液を用意しました(図4A、漫画参照)。そして、桑の葉は凍結融解によって完全にバラバラにしました。桑の葉を凍結融解でバラバラにした場合は、みどりの香りの(E)-2-ヘキセンナールと(E)-2-ヘキセン-1-オールが見つかりました。(補足:(E)も(Z)と同じく立体構造を示すもの。)しかし、絹糸腺をすりつぶした溶液をバラバラにした桑の葉に加えた場合、これらの量は溶液の濃度依存的に減少しました(図4B)。絹糸腺の中部中後区や後部を使った場合は、このような減少は見られませんでした。

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みどりの香りの生成を抑えることに関係する因子の決定
 葉が傷つけられてから数秒以内に、リノレン酸はリポキシゲナーゼという酵素によって13S-HPOT(脂肪酸ヒドロペルオキシド)という物質になります。続いて、酵素によって2つに分解され(Z)-3-ヘキセナールが作られます。13S-HPOTは絹糸腺をすりつぶした溶液と反応した時に、13S-HPOTの特徴的な光吸収(波長234 nm)は減少し、同時に波長280 nmでの吸収が見られるようになりました(図4C)。(補足:光吸収の特徴が変化したということは別の物質に変化したと言うことを示す。)この反応した物質を解析した所、13-OTE(ケトジエン脂肪酸)という物質であることが分かりました。この結果は絹糸腺をすりつぶした溶液が13S-HPOTを13-OTEへと変化させたことを示しています(漫画参照)。
 13S-HPOTから13-OTEへの変化に注目して、みどりの香りの生成を抑える因子を探しました。その結果、分子の質量として32 kDaのたんぱく質を発見しました。(補足:Daはたんぱく質の質量を示す単位。1 kDaは1000 Da。)このたんぱく質は13S-HPOTを13-OTEへと変化させる酵素で、BmFHD(カイコガの脂肪酸ヒドロペルオキシド脱水素酵素)と名付けました。(補足:Bmはカイコガの種名(Bombyx mori)を表している。)。

遺伝子のクローニング
 BmFHDたんぱく質の内部のアミノ酸配列は、データベースにある不明なたんぱく質のものと完全に一致しました。(補足:不明なたんぱく質とは、似ているたんぱく質が無いので、どのようなたんぱく質かわかならない状態のたんぱく質。)カイコガのデータベースであるSilkBaseで、このたんぱく質の遺伝子配列を探した所、289のアミノ酸からなる遺伝子が見つかりました。アミノ酸配列を解析すると、たんぱく質を細胞の外へ分泌するための配列があることが分かりました。また、BmFHDのアミノ酸配列には、これまでに報告されている他の脱水素酵素やフラビン酵素と似ている部分はありませんでした。アミノ酸配列から予想される機能的な部分を探してみましたが、それについても見つけることは出来ませんでした。
 この遺伝子を使って、カイコガの培養細胞でたんぱく質を作らせました。そのたんぱく質は13S-HPOTを13-OTEへと変化させました。この結果は、この遺伝子がBmFHD酵素の情報を持っていることを示しています。

BmFHDの発現している組織と時期
 BmFHD遺伝子は、5齢虫3日目のカイコから取り出した10個の部分組織の中では主に絹糸腺の中部前区に発現していました(図5A)。絹糸腺の中部前区でのBmFHD遺伝子の発現は、4齢虫の最終ステージである3日目に見られましたが、その後の脱皮期では減少しました(図5B)。脱皮後の5齢虫では再びBmFHD遺伝子の発現が見られ、高い発現量のまま3日目まで続きました。その後は減少し、5日目(彷徨期)、6日目(営繭期)までに発現は見られなくなりました(図5B)。
 絹糸腺のそれぞれの部分から抽出したたんぱく質を、BmFHDたんぱく質とくっつく抗体で調べた所、遺伝子の発現している中部前区から抽出したたんぱく質で強いシグナルが観察されました(図5C)。同時に、前部から抽出したたんぱく質でも同等のシグナルが、さらに重要なことに、吐糸口から集めた分泌物にもシグナルが観察されました(図5C)。カイコの5齢虫が食べた桑の葉の断面に塗りつけたBmFHDたんぱく質の量をこの抗体を使って測ったところ、普通のカイコの場合は桑の葉1gあたり平均32.1 μgでしたが、吐糸口の無いカイコの場合はBmFHDたんぱく質を見つけられませんでした。また、バラバラにした桑の葉にこのたんぱく質を3.4 μg加えることで、(E)-2-ヘキセンナールを減少させることが出来ました。

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BmFHDの系統解析
 チョウ目の昆虫である、ナミアゲハ(アゲハチョウ科)、メルポメネドクチョウ(タテハチョウ科)、クルミマダラメイガ(メイガ科)、コナガ(クチブサガ科)、ニカメイガ(ツトガ科)、ハスモンヨトウ(ヤガ科)、モンシロチョウ(シロチョウ科)のゲノム配列を解析したところ、チョウ目の他の昆虫にFHDに似た遺伝子があることが分かりました(図6)。ハチ目のカブラハバチ(ハバチ科)にも少し似た遺伝子が見つかりました(図6)。ハエ目のショウジョウバエやアフリカマラリア蚊、カメムシ目のエンドウヒゲナガアブラムシのゲノムには似た遺伝子は見つかりませんでした。(補足:上記3種の昆虫は研究対象としてよく使われているため、データベースが整っている。)

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[考察]

 ほとんど全ての陸生植物は、草食動物による機械的なダメージに反応してみどりの香りを生成し放出する能力があります。その生成と放出は傷つけられて数秒以内に始まり、一般的に数分以内に終わります。そのため、みどりの香りそれ自体が、攻撃されている植物がいるという情報を持っています。他の揮発性物質と同じように、みどりの香りの放出は捕食寄生者や捕食者にとって、植物上で活発に食事をしている宿主またはエサを見つけるための合図として使われる可能性があります。実際に、いくつかの捕食寄生者と捕食者はみどりの香りを狩猟のために使っています。本研究では、桑の葉が吐糸口の無いカイコによって食べられた時に、より多くの3種類のみどりの香りを作り、このみどりの香りの増加が結果としてヤドリバエの産卵行動を促していました。ヤドリバエに加えて、桑による間接防衛に反応することが知られている、いくつかの寄生バエがいます。その中で、ブランコヤドリバエも、みどりの香りである(Z)-3-ヘキセン-1-ニル酢酸塩と(Z)-3-ヘキセン-1-オールを草食動物がいる植物の合図として使っています。そのため、草食動物に寄生された桑の葉によるみどりの香りの生成は、より効率的に寄生者を攻撃することで桑の葉に利益をもたらします(漫画参照)。この状況では、みどりの香りによる間接的な防衛への対抗策を持つことは、草食動物にとってより高い適応性を持つことにつながります。
 BmFHDたんぱく質は、脂肪酸ヒドロペルオキシドから水分子を取り除く先例の無い反応を引き起こします。リポキシゲナーゼ、カタラーゼ、フラビン酵素は似たような反応を引き起こしますが、BmFHDたんぱく質にはこれらのたんぱく質とは似ていませんでした。また、その反応には明らかに補助因子を必要としませんでした。(補足:BmFHDたんぱく質だけで反応が進むため。)さらに、アミノ酸配列も先例の無いものであったことから、BmFHDは新しい酵素と言えます。この酵素は非常に高い基質特異性を持っていましたが、そのような特異性は一般的な抗酸化酵素には必要ないように思われます。(補足:基質特異性とはある決まった物質としか反応しないこと。)そのため、BmFHDたんぱく質はカイコの中で抗酸化酵素として働いているというよりは、食べた後の葉の断面で生成されるみどりの香りを抑えるための酵素であると考えられます。カイコが葉を食べる時期にBmFHD遺伝子の発現量が高いことからも、この考えは支持されます。
 いくつかのチョウ目の昆虫はBmFHDと似た遺伝子を持っていました。BmFHDと似た遺伝子を持つモンシロチョウの幼虫の吐瀉物は、シロイヌナズナから放出されるみどりの香りの生成を抑えることが報告されています。みどりの香りの生成を抑える能力は、カイコガ科のアワヨトウやハスモンヨトウの絹糸腺の抽出液にもありました。つまり、分泌物にあるBmFHDに似た酵素によるみどりの香りの生成を抑える能力はチョウ目の間に広がっていると考えられます。ほとんどのチョウ目の幼虫では、絹糸腺はまゆを作るためにあります。にもかかわらず、幼虫はまゆ以外のためにも糸を紡ぎます。一匹でいるチョウ目の幼虫は葉の上に絹を残します。例えば、コナガの幼虫はキャベツの葉の上で糸を紡ぎます。オオモンシロチョウの幼虫をガラスのペトリ皿に閉じ込めると絹を残します。本研究から、チョウ目の幼虫が糸を紡ぐもう一つの理由として、間接的な防衛を抑えるためであることを付け加えます。本研究で調べたチョウ目の昆虫の全てにBmFHDに似た遺伝子がありました。このことから、この対抗策がチョウ目の間に拡がっていることが推測されます。他のチョウ目の昆虫の遺伝子情報が不足しているため、この考えをチョウ目全体に拡げるために、さらに多くのチョウ目の昆虫でBmFHDに似た遺伝子を広く探すことが必要とされます。ハチ目のカブラハバチで見つかったBmFHDと少し似た遺伝子の機能を調べることは、分泌物に含まれる酵素によってみどりの香りの生成を抑える対抗策が、昆虫が進化していく中でいつ、どのように獲得されたのかを知ることにつながるでしょう。

よろしくお願いします。