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(5)読みたい本が増える

文芸誌といえば、「新しい文学作品の発表の場」としてイメージされがちで、実際にそれはそうなのだけれど、出版社が刊行している文芸誌には「自社商品の宣伝媒体」という側面もある。

群像では2023年4月号から「本の名刺」というコーナーがスタートした。「新刊の著者に本の自己紹介をしてもらう」というコンセプトのエッセイ枠だ。その本がどんな背景で書かれたのか解説する人もいれば、自著のテーマを踏まえつつエッセイ単体として読めるように書く人もいる。3ページ程度の文章なので数分で読める。内容や文体にピンときたら、紹介されている作品が読みたくなり、僕の中の「気になる本」リストが増える。

新刊の刊行を記念して、作家の特集が組まれることもある。2023年1月号からこの文章を書いている時点まででも、山田詠美、多和田葉子(ともに1月号)、紗倉まな(4月号)、川上未映子(5月号)、村田沙耶香(6月号)、金原ひとみ、中村文則、古川日出男(ともに11月号)などの特集・小特集が掲載された。
特集という枠組みが無い場合でも、「新刊『●●●●』刊行記念」と題して、インタビューや対談記事、書評、エッセイなどが単発で載ることは多い。
もしかしたらほとんどの読者は、好きな作家の特集であれば読み、それ以外はスルーしているのかもしれない。たが僕は、群像を全て読むことにしたので、律儀にそれらも読み、まんまと興味を惹かれるのだった。僕の中の「気になる本」リストが増える。

さらに、2023年6月号からは「文一の本棚」という書評コーナーが始まった。「文一」というのは、群像と、群像初出の作品の単行本、文芸文庫などを担当している部署「講談社文芸第一」の略称らしい。このコーナーでは毎回、書き手が「文一」から出た書籍を一冊取り上げて評したり、その本への思い入れを書いたりしている。もうこうなってくると、新刊かどうかも関係ない。過去に「文一」から出た本ならどれを取り扱ったって構わないのだ。初回なんて、平沢逸が保坂和志『プレーンソング』について書いている。1990年の作品だし、今買うなら中公文庫だ。もはや、どの出版社から出ているのかも、どうでもよくなってきた。僕の中の「気になる本」リストが増える。

そしてもちろん、書評や宣伝寄りの企画で無くとも、文芸誌を読めば本の情報はあちらこちらから僕の脳内に流れ込んでくる。
知らなかった書き手の随筆が面白ければ、その執筆者の過去の著作も読みたくなる。評論文の中で書籍が引用されていたり、未知の文学作品が言及されていたりすると、それらも「気になる本」リストに加わっていく。

ぶっちゃけ、群像一年分が当たった当初は「書籍化前の作品を先に読める」=「本を買う費用の節約になる」と考えていた。しかし、これは大きな間違いだった。文芸誌は直接的にも間接的にも、新たな本への興味をとにかく搔き立ててくる。僕の「気になる本」リストはもうパンパンに膨らんでしまった。早く買って読みたい本がいっぱいある。きっと来年の書籍費はえらいことになるだろう。
それでも、今の僕にはそれらの本を読む時間がない。群像を一年分、読破しなければならないのだ。

もうすぐ、次号が届く。

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