見出し画像

福山市立動物園

「僕らはかつて何者にもなれたー。子どもの想像力が心の臓をド抉る」

皆さんは小学生のころ、どのような絵を描いただろうか。
描いたというより、「画用紙をクレヨンでぶん殴った」という表現が適切ではないか。
無我夢中で、ソレに似せようとの意識も無く、他人から褒められたいワケでも無く、
真っ白なキャンバスに、ただただ己の存在をブッ叩きつけた―。

僕だけの空、僕だけの海。
大人となってからは、もう見ることのできない地平線。
その世界の片鱗が、福山市の動物園に落ちていた。


気づいた方がいい。その入園チケットを買った瞬間、もう始まっている。
生まれも育ちも広島市内である僕にとって、
動物園とは「安佐」であり、「福山」では無かった。
そのため、同じ広島県内にも関わらず、福山市立動物園へは初めて。
  
JR福山駅からタクシーのおじいちゃんによるバリ堅広島弁を聞くこと約30分。炎天下、アツアツの福山市立動物園に無事到着。

さて、入園チケットを購入。ここは、来園時に己を研ぎ澄ますトコロ。
初回なので、文章を割くと、入園チケットに映っている動物=その動物園の顔。
例)天王寺動物園の入園チケットにおける「キューイ」等。今は違うかもやも。

来園者はこの入園チケットを手に取り感じるワケです。
「今からこの動物に会えるッ!!」「楽しみで致し方がないッ!!」と。
いわば、プロレスにとっての選手入場。映画におけるメインポスター。
つまり、入園チケット。来園者へ動物園に対する期待値をコントロールする重要な仕掛け。ここから始まっている。動物園とのシュートマッチは。

なお、福山市立動物園の入園チケットは「ライオン」。百獣の王がこの園のヘッドなワケか。ライオン展示への期待が高まる、高まるわ。武者震い。ぷるぷる。

画像1

小学生作 動物紹介POPは大人殺しのグーパンチ群
入園。園内パンフレットを入手し、順路を確認。
僕は原則順路を選択。これは動物園側で規定したルートを巡ることで、
園側の仕掛けを最大限「楽しめる」=「戦える」と考えているから。
例えば、「ますはトラで盛り上げ作って、そこからの鳥展示でテンション落ち着かせて…」みたく良い動物園は映画みたいに、来園者のテンションを上手くコントロールしてくる。
そして、僕はそれらを読み解くのが好き。だから、映画を途中から観る人が少ないように順路一択。です。
  
長くなった。福山市立動物園の順路はかなりシンプル。
パンフレットにも巡る番号が掲載されているため、凄く助かる。やったね。

はじめは、ペンギン。フンボルトとジェンツー。
日本でこれらペンギンの展示は珍しく無いが、動物紹介POPに目を通して、度肝を抜かれた。

画像2

画像3

動物園と近隣小学校の連携は珍しくない。
しかし、ここまで「アンチェイン(鎖に繋がれていない)」なものは初。
「Q:ペンギンの鳴き声は?」とクイズ。その真下に「ブォー」と答え。

クイズでクイズ自体の存在を問うてくる、禅問答ばりのPOPを前に僕は硬直。そしてここから左脳のフル回転が始まる。
これを生徒に描かせた先生は、生徒にアドバイスしなかったのか?
「クイズの答えは、離れたところに書くのが常識よ」と。
いやいや、そもそも「常識」とは。大人になるため、子どもは「常識」に染められていく。社会性を得るため。だが、この考えは本当に正しいのだろうか。何が正解なのか。実は、このペンギンPOPのクイズ形式こそが、クイズの「常識」か?なんなのか。

この「ぐるぐる」に終止符を打ったのが、コレ。
 

画像4

セルフ結露取り。
  
人は自分が過去に見てきたものでしか「常識」を語れない。
ジェンツーの水槽は中が冷たいからね。暑い外気に触れると結露が発生しちゃう。水滴が着きまくった水槽でペンギン見にくいよね。どうするん?

「来園者のみんなが拭きんさい」
この答え。僕は辿り着けなかった。
園者サービスがー。お客様の負担がー。「常識」なぞ知らんのじゃ。
本来人間は、自由。ペンギンが海中を飛ぶが如く。
  
結露取りで水槽を拭くと、氷塊みたく凝り固まった自分の頭が、少しばかり、氷解した。ゆるゆる。

どうする。思考に枷が無い人間が、絶え間なく仕掛けてきたら。
禅の公案ばりのペンギン館をはじめ、シマウマ、キリン、ヤマアラシ、カラカル等々…ほぼ全ての動物案内POPは小学生が作ったものが掲出。

画像5

二ホンリスの鳴き声。オトマトペとは何かを問われる。

画像6

「ぜつめつした」とさらりと書かれると、人間の業が増す。

画像7

「写真には写りたがらないライオン」。つい、その背景に思考が巡る。

禅僧の「寒山拾得」ばりに、動物案内POPという場で遊ぶ小学生からの「シュート」。常識内で生きざるを得ない、今の僕。自由。闊達。もう戻れないあの日々から放たれた、ストレートパンチ群は容赦なく心臓を抉る。
  

なお、入園チケットに映っていたライオン。永眠していた。
合掌。(了)


おまけ

画像8

ゾウが小さな時に運搬した檻。檻の中に入れるし、ゾウの成長速度も伝わる一石二鳥な素晴らしい展示。

画像9

飼育員様の体をはった動物クイズ。漢気が走る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?