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心に残っている音を、言葉にすること

今度の土曜日で、3週間になってしまうので、ここらで、えいやっ!と、書き留めておこうと思います。

先月の27日に、千葉県の市川市の文化会館で聴いてきた、千葉交響楽団の第113回定期演奏会のことです。

千葉響は、今年度からホームホールを持たない、”流浪の楽団”として、千葉県のあちこちで演奏会をすることになっています。何度か記事にもしましたが、2つあったホームホールが、何故か同時期に閉館あるいは、長期改修に入ったためです。

せっかく、音楽監督の山下一史さんの切望がかなって、今年度から定期演奏会も一つ増えるし、気合を入れて進もうとしているときに、その出鼻をくじくような事態です。

定期演奏会では、必ず山下さんのプレトークがあるんですが、もちろん今回はこのことへの言及がありました。それを聴いた感じを、私なりにまとめると、ともかく2年半余り先の千葉県の文化会館の再開を切望しながら、初心に帰って千葉県内を演奏して回って、「おらが街のオーケストラ」としての認知を高めようと決意した、という印象です。

県の文化会館の再開は確約のようです。ホームホールが一つ戻ってくれば、ひとまず拠点ができますからね。具体的な2年半あまり、という数字も出ていますから、山下さんも、この辺りまでは待とうじゃないか、ということのようです。

逆に習志野文化ホールは、「もう、少なくとも、俺は知らん!」という態度のように感じました。そんなに待てるか!と。10年ともそれ以上とも言われている再開を待っていられない。俺の任期中に再開しようがもうどうでもいいと。何があったのかはわかりません。でも、山下さんなりに見切りをつけて、前を向いてやってゆこうという決意だと、私は聴きました(あ、ここは私の勝手な解釈で、マエストロがそうおっしゃったわけじゃありません。念のため)。

そういう雰囲気もあっての、市川での定期演奏会です。

私は実は、13年前まで市川の住人でした。けれども、そのころ、クラシック音楽のコンサートに行く習慣がなく、今回の会場の文化会館に入ったことがなかったんです。山下さんや仙台フィルに出会ったのは、東日本大震災発生の年で、そのころにはもう私は松戸市に来ていました。

市川の文化会館も今年開館40周年だとかで、昨年リニューアルしたばかり。初めて来た私には、リニューアル前のホールはわからないので、新しくできた会場にきた気分でした。場所は以前から知っているので、不思議な感覚でした。JR本八幡駅の南口から徒歩10分くらい。アクセスも、なかなか便利です。

今回のプログラムは、前半が古い時代の音楽で、編成も小さめ。後半が、ベルリオーズの「幻想交響曲」という、編成も大きいし19世紀のフランスの音楽という比較的新しい時代の作品。今年は、どうしたことかこのベルリオーズ、コンサートのメインで人気です。もともと、人気がある作品なんですけれどね。

前半のメインがモーツァルトの「ホルン協奏曲 第3番」。ソリストが、楽団員のホルン奏者・大森啓史(おおもりけいじ)さん。管楽器より弦楽器が好きな私ですが、ホルンの音色は、牧歌的な響きがあって好きです。しかも、作品によっては、ファンファーレを奏でることもあって、温かみがある輝きが好きなんですね。

千葉響は、私が山下さんを追いかける形で聴き始めた頃こそ、管楽器の貧相さが悪目立ちしていたのですが、だんだんに力もつけてきて、今では聴き応えのある演奏を聴かせてくれます。その中にあって、大森さんの音色の目覚ましさは、際立っています。
「あ、良いホルンだ♬」と思って、舞台を観ると、たいてい大森さんがソロパートを演奏しているんですね。

ホルンは金管楽器ですから、ボディがキラキラしています。ただ、これはいわゆる新しい楽器なのだそうです。モーツァルトのころは、ナチュラルホルンという古楽器で演奏されていたのだそうで、今回大森さんは、このナチュラルホルンで演奏されました。
今なら、ボタンで調音するところを、管の付け外しで演奏するのだとかで、相当高度な技術も必要です。日本でこのモーツァルトをナチュラルホルンで演奏する、しかもプロの演奏会で使うのは日本では初めてらしいとか。

事前に、千葉響が大森さんのナチュラルホルンの演奏動画を作っていたのを観ました。ものすごくややこしくて、面倒です。「これを、コンサートでやるの?!」素人ながら、心配もしつつ、反面ワクワクもしながら当日を待ったのでした。

今、あれから3週間近くがたつのですが、私の頭の中には、この時の大森さんのモーツァルトが、流れてくることがあります。素人で、モーツァルトに詳しくないので、「ホルン協奏曲 第3番」と言われても、どの曲か最初はわかりませんでした。

それでも、のどかさもある穏やかな明るさに満ちた演奏は、私に青空と緑豊かな牧場をイメージさせたのです。私の頭の中に流れてくるのはこの曲の最終楽章の冒頭部分。ホルンが「パパパパパパパ~パ、パパパパパ~パ・・」と、小気味よく鳴ってゆくのです。これをを聴いた時、「あ、私が一番好きなあれか!」と、座席で膝を打ったものでした。私はこれを聴くたび、牧場で牧童が角笛を吹いているシーンをイメージします(表記した拍は、間違っているかもしれません。悪しからず)。
その緑豊かな、気持ちが晴れ晴れする音に、当日聞き惚れていました。そこにたどり着くまで、大森さんは、山下さんとアイコンタクトを取りながら、管をつけたり外したりを、絶妙な自然さでこなしておいででした。そうした動作も演奏の一部だといわんばかりに、表情も変えずに柔らかな雰囲気で立っているんですね。

大森さんは、背も高いすらりとした方ですが、演奏中、さらに大きく観えたことです。

湿度の随分上がった日々に辟易するとき、ふとこの時の大森さんの音色が聴こえてくることがあります。そうすると、一時とは申せ、私の心身に薫風が流れるんですよね。牧場を吹き渡る、グリーンの音色が。

山下さんは、プレトークで「僕は、大森君に、音楽家としても人間としても、絶対の信頼を置いています! 彼は、千葉響の精神的支柱です!!!」と絶賛されていました。その全幅の信頼にこたえ、オーケストラともバランスよく対話していた名演だったと、私は信じています。

終演後、ホールの周辺では見かけなかったツバメを、駅の周辺で観ました。「やっぱり、千葉響の春の定期には、ツバメがいなくちゃ!」そんな安堵も感じたことでした。

寒暖差が大きな日々ですね。皆様くれぐれもご自愛くださいませm(__)m💕💛

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