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花散らしの雨が、涙雨でもあったコンサートに行ってきました。

先日の26日の日曜日。本降りの雨の中、千葉県の習志野市にある習志野文化ホールに出かけました。

桜の花は満開で、雨だけれど、なんだか明るさがあります。ただ、強い雨にずっと打たれていますから、花びらがどんどん落ちています。道路でも、桜が満開状態でした。

「花散らしの雨だけれど、コンサートホールにとっては、涙雨かなぁ・・・・」

そんなことを思いながら、傘をさして悪戦苦闘しながら、駅まで歩きました。

実は今回の会場の習志野文化ホールは、今年の3月いっぱいで長期休館に入ることが決まっているんです。私が参加したコンサートは、今のホールでの最後の演奏会だったわけなんですね。

千葉県のホールとしては貴重なパイプオルガンも備わった、とても響きの良いホールです。最愛のマエストロ・山下一史が千葉交響楽団の音楽監督に就任した7年前の5月、その就任記念コンサートを開催したのもここでした。

その時私は、職場で大けがをして、リハビリ中でしたが、どうしてもコンサートを聴きたくて、三角巾で腕をつって、参加しました。右腕全体がまだ自由にならない頃で、握力のない筋肉が落ちた右手では拍手すらできませんでした。
その後、少なくとも1年に1回、山下さんが指揮をなさるときは、必ず参加してきました。千葉響には第2のホームホールでしたから、5月には必ず定期演奏会を開催してきたのです。
スタートのコンサートは、お世辞にも成功したとは言えないレヴェルでした。プログラム前半の演奏は、聴き応えがあったのですが、肝心のメインのチャイコフスキーの5番が、ひどすぎました。あまりに貧相だったのです。それでも、山下さんの懸命の指揮と、それに応えようとする楽団員の熱意は充分すぎるほど伝わってきました。その様が、私のみならず、その時参加した聴衆を惹きつけたのでしょう。演奏会を重ねてゆくうちに、ファンも増え、レヴェルも飛躍的にアップしてきたのです。山下&千葉響の歴史が始まる瞬間に、私は立ち会えたのですね。

今回のコンサートは「名曲で飾る 習志野の響きーーパイプオルガン&アリアと合唱」と銘打ち、このホールとつながりが深い千葉響、そして、習志野文化ホール楽友合唱団と、4人のソリスト(皆さん歌い手です)の出演で、構成されていました。

前半が、山下&千葉響による、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。後半が、山下&千葉響の演奏とともに、合唱団と4人のソリストが入れ代わり立ち代わり(あ、ソリストの方々が、ですよ、もちろん)オペラのアリアを歌い上げるという2部構成。個人的には、この前半と後半を逆にしてほしかったのですが、実際にコンサートを聴いてみて、これでよかったのだと納得しました。

千葉でパイプオルガンを聴くのは、これが初めてでした。東京では何度か聴いていますし、この習志野のホールでオルガンのコンサートもあったのですが、演奏家にこだわる私ですので、チャンスがなかったんですね。

今回私は後方の席でした。ちょうどホールの右側側面に設置されているオルガンと向き合うような恰好でした。山下&千葉響の力強くも豊かな表情を湛えた演奏の中に、すーーーーっと入ってきたオルガンの音は、とても柔らかくて音色がしみ込んでくるようでした。それでいて、静かな荘厳さだったり、豊かな輝きも放っています。オーケストラの響きを包み込むように、奏でられていることもあれば、千葉響の演奏の輝きに呼応するかのように、天上から降り注ぐ散華のように聴こえてくることもありました。

この作品自体、大好きな私は、マスクなしで聴けるコンサートの心地よさもあって、呼吸が深くなるのを感じながら、「オルガン付き」の世界に酔いしれていたのでした。今でも、時折頭の中に、この時の演奏の後半部分の一部が流れてきます。それは名演を聴いた時にだけ私に起こる至福なのですね。

そして後半。
「カルメン」・「ジャンニ・スキッキ」・「トスカ」・「トゥーランドット」・「カヴァレリア・ルスティカーナ」。これらの有名なオペラから、様々なアリアが披露されてゆきます。オペラには全然詳しくありませんから、知らないアリアもありました(どの作品も、まだ観たこと無いんです)。けれど、そんなことは問題ではありません。4人のソリストの方々と合唱団が、「歌える喜び・聴き手と音楽を共有できる喜び」を爆発させていました。もちろん、山下&千葉響も同様です。その真摯な思いは、演奏から十二分に伝わってきました。

その熱い思いが、客席に伝わってきたのでしょう。演奏が進むにつれて、客席中央から前方の方々は、「ブラヴォーーー!」と声を上げたり、スタンディングオベーションすら起こっています。演奏家同様、聴き手の側もまたこの3年、様々な苦痛を甘受してきました。ホールへの思いも重なって、こみあげてくる感情が噴き出してきたのでしょうね。もちろん、そうさせるだけの力を持った名演だったからなのですけれども。

演奏する側と聴く側が一体となった感覚がありました。その思いに応える形で、アンコールは3曲。「カヴァレリア・ルスティカーナ」から「間奏曲」。ヴェルディの「ナブッコ」から「行け、我が思いよ、金色の翼に乗って」。最後はやはりヴェルディの「椿姫」から「乾杯の歌」。

オーケストラだけの演奏・合唱団との共演、そしてすべての出演者勢ぞろいでの熱唱。アンコール曲の前半2曲は、私自身が山下&千葉響で聴きたいと願っていましたから、聴いたら全身震えちゃいました(前半の「オルガン付き」も、かつてアンケートでリクエストしたことがあります)。

何度もカーテンコールがあり、会場全体が名残を惜しんでいました。終演すれば、このホールとはお別れです。再会の時期もわかりません。それでも、終わりは来ます。ただ、私はこの時の熱いエネルギーは、必ず次につながると確信しています。もちろん保証はないんですがね。

ホールを出ると、雨が上がっていました。新緑がとてもきれいに映えています。ツバメを探していて、「あ、今、5月じゃなかった・・・」と苦笑しました。5月の千葉響の定期では、必ずツバメたちが元気な姿を見せてくれていたのです。

新しいホールの約束はある、という噂もあります。それが実現することを、今は願う以外私にできることはありません。それでも、「次も、山下&千葉響のコンサートで、こけら落としね!」と祈りながら、帰途に着きました。

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