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全部を賭けない恋がはじまれば

私はハードボイルド小説「新宿鮫」シリーズを読んでいるので、新宿はヤクザと外国人犯罪者と警察関係者だらけの恐ろしいところだと知っている。
世の中には知らないことがたくさんあり、私は小説から様々なことを学んだ。私は『全部を賭けない恋がはじまれば』稲田万里(著)を読んだ。今回も学んだ。


学んだ。
例えば最初のパイパン男、殴ってやりたい。他にもパンチを喰らわせてやりたい登場人物が何人かいる。世の中にはいろんな人がいる。

「性欲」「パイパン」「股間」という単語が連なる物語の出発点は、下ネタ満載おもしろエッセイのはじまりを予感させる。

しかし読み進めるうちに、自分を省みることになる。恋愛、仕事、友人、家族。その時々の相手は自分をどう思っていただろうと。
知るのは怖い。私は甘やかされて育ったので、知らないほうがいいはずだ。知ることに耐えられないと思う。思っていた以上の深い愛情に気づいて涙するかもしれないし、その逆かもしれない。私は甘やかされて育った。


この本は、さまざまなタイミングでさまざまな人に確かに愛されていたと気づかせてくれる本だ。
恋愛感情だけではない様々な愛情が自分に向けられ、ときにはそれらを受け流したり、まったく気づかなかったり、ほったらかしたり、忘れたり。
逃げているつもりはないけれど、きちんと受け止めて引き受けてはいないものだなと気づかせてくれる本だった。

だから私はちょっと切ない。

それなりにがんばってきたつもりだが、もうこんな歳になって、周囲の人も同じく歳をとってしまった。自分に向けられた愛情に応えられてはいない。もうこの世を去ってしまった人も多い。そういう切なさだ。
つまり読んだら切なくなる本だ。だけど、このような切なさは経験するなら早いほうがいい気がする。

そんなわけでこの本はオススメ。★5です!

著者自身の話なら、この本の内容はリスクがあると思う。でも本になって本屋で売られている。だからどうせならたくさん売れてほしい。正直な本だから読む価値も高まる。

そして、現在の著者に、書いたらただのノロケ話になるような、まったく何も書くことがないような、恋や人生が、始まっていたらいいなと思う。


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