R-1グランプリ 2020

R-1グランプリ2020を見ました。

今回は無観客という点でも話題になりました。

優勝はマヂカルラブリーの野田クリスタルさん。大学生の時から彼らの漫才の大ファンで、野田さんのブログ「野田日記」も毎日欠かさず見ていました。彼が優勝した時、思わず涙、とまではいきませんでしたが、純粋に感動しました。

◯R-1ってなんか物足りないんだよな

YouTubeに上がっているフル動画やTwitterでの感想を見るとよく見られる意見です。
何故こう言った感想が上がるのか考えてみました。

そもそもお笑いのルーツとしてある落語は一人芸なんですが、昭和時代に、落語とは別に漫才とコントというお笑いの文化が入ってきました。そしてこの文化は「ボケ」「ツッコミ」という概念を連れてきました。

ここで人々は会話劇だったり、ボケとツッコミのセットで笑うということを覚えます。

そのように時代が変遷してきた中、一人芸で優勝を決めるとなると、落語など語りや演技のうまさだけでなく「笑いの量」という尺度が審査の点数をつける要素として多くを占めることになります。

そうなるとピン芸であっても、「ボケ」と「ツッコミ」が必要になってきているのだと思います。
その中で「ボケ」は一言では片付けられないくらいの種類があります。

設定がおもしろかったり、モノマネやあるあるなどの共感性で笑いを取ったりが代表的なところかもしれません。

設定が面白いコントを披露する点ではバカリズムさんや劇団ひとりさんが先頭を走っています。バカリズムさんの「100m走でみんなが引いてしまうタイムを出してしまって謝罪会見をする」「局部をビデオデッキに入れてしまい取れなくなる」という設定や、劇団ひとりさんの「マジシャンの老人ホーム営業」など思いついた時点で強いようなネタをよく見ました。
モノマネやあるあるなどの共感性を含んだピン芸を披露する人も少なくありません。
最近ですとりんごちゃんや、Mr.シャチホコが人気でしたが、R-1の大会でも博多華丸さんやじゅんいちダビッドソンさんなどが優勝されています。
あるあるネタだとRGさんだったり、去年最終決戦まで残ったセルライトスパの大須賀さんなんかもこの部類かと思います。

他にも音声や映像やフリップに「ボケ」や「ツッコミ」の役割を担ってもらったりする人も多いですね。

私が中学生の時代は陣内智則さんのネタが好きでしたが、陣内さんも映像が「ボケ」で陣内さんが「ツッコミ」で一種のコントのようなネタだったかと思います。去年優勝した霜降り明星・粗品さんもフリップが「ボケ」で、それに対してツッコむというネタでした。こういったネタは前述したとおり「ツッコミ」で笑う文化を歩んできているので、「笑いどころ」がわかりやすいですし、強いですね。

あとはザコシショウさんのように、馬鹿馬鹿しいボケで爆笑をかっさらうこともあります。ザコシショウさんのネタはわからない人は全く笑わないんですが、自分の場合その「意味の分からなさ」「生産性のなさ」だったりがツボに入ってしまったり、遺伝子レベルで笑ってしまうんですよね。ドキュメンタルで見せていた単独ライブの転換VTRなんて最高でしたね。

ちょっと話がそれましたが、一人芸は自然な掛け合いができない分、「ボケ」「ツッコミ」の明確な区分がないので、漫才やコントを見てきた人にとっては物足りなさを感じてしまうのだと思います。

物足りないと思う方には「んなわけあるか!」とか、「何を見せられてるんだ?」とか自分の脳内でツッコんでみることをお勧めします。

せっかく2時間つかって番組を見るんですから、楽しんでみてほしいなと思っています。

〇ここで唐突にR-1 2020を振り返ってみます。

※語りたい芸人さんは太字にします

Aブロック
〇メルヘン須長

ツッコミのワードが少し弱かったようにも感じる。

「科捜研の女の沢口靖子が普段はもっと大きい事件を斬るのに、SNSのしょうもない事件を斬っている」という設定で笑わせる感じだったのかな?

自分自身科捜研の女を見てこなかったので、科捜研のフリがあまり伝わらなかった感じがある。

さらば青春の光のネタじゃないけど、人が斬ったとこ斬っている感じ。

◯守谷日和

これも「取り調べ」と「落語」を掛け合わせたら、という設定の芸。

設定がまず新しいのと、成立させるぐらい話芸が達者だったけど、序盤で会場全体が緊張感があったからか、ウケは少なかった。

ちゃんと机の上に座って上着を脱ぐ大きい展開で笑いが生まれていたのはちゃんと計算できているなぁと思えたが、もう一個ぐらい展開があると面白かったのかもしれない。

「エピソードトークが達者」というくだりが1回だけ多いように感じました。

守屋日和さんはキャラ芸も面白いので他の芸も見てみたいなぁと思います。

◯SAKURAI

凄い面白かったです。

余計な説明はせず、いきものがかりの「じょいふる」にも似たキャッチーなギターリフ、ワードの羅列、そのワードの連想性を叫ぶ種明かし、一回のネタでシステムがわかるその簡潔さ。完璧だなと思いました。

「これは一種の拘りかな?」と思ったのですが、種明かしの小節の語感、文字数が大体一緒なんですよね。

「徳川15代将軍の肖像画の顔の向き」など、長めのワードの場合メロディに収まらないんですが、その前に別のメロディを入れる工夫をしていたので同じ語感でいうことが出来ていて、それがさらにウケを取れている要因だったように見えました。

他にも、ずっと同じメロディラインではなく転調を入れたりすることで飽きさせないようにも出来ていたように思います。

オチも素晴らしかったですね。

「モロヘイヤの生産量第5位から」という上の句で、今までのシステムを見てきたから「あぁ5位から1位の県なんだ」と思わせておいて、「第5位から第10位」という予想を裏切る展開。

野田クリスタルさん推しだったので、とてつもない強敵が出てきてしまったなと思いました。

マヂカルラブリー野田クリスタル
陣内智則さんのテトリスを連想させるような作りではあったが、野田さんはボケの人なので敢えてシステムを説明することでゲームのボケを成立させているので、少し違うものかなと思います。
また、自作している点だったり、どちらかというとソシャゲに作りを寄せているので、より今の若い人たちにも伝わりやすかったのかなと思います。
また、実況プレイ的な芸なので、テレビの前の若い人たちも違和感なく受容できていて、それが視聴者投票、Twitter投票ともに一位という結果につながったのかなと。

どっちかというとギャグマンガ日和のゲームの話に近い感じがしましたね。

それにしてもやっぱり人がゲームやってるところってゲームやってきた人だと、より面白いですね。
ダーッ!とかヤーッ!とか言ってるところも「わかるわかるそういうの言っちゃう」みたいな共感性の笑いもありましたし、色んな要素が詰まっているようにも見えました。
あとは、ゲームやってるが見ている前提のフリとボケありましたね。
「横スクロール"なのに"画面外に出る仕様あるのか」とか
「ただストッキングを脱がせて行くだけのゲーム"に見えて"攻撃もしてくるんだ」とか、そこの意外性はゲームをやってきてある程度ゲームごとのテンプレを知ってる人だからこそ笑えたりするので、思い切ったボケだなあと思いました。
少なくとも自分はくにおくんとか児童館でやってた世代だったので、大好物でした。

Bブロック
◯ルシファー吉岡

バイト先の先輩と女の子の後輩というコント。女の子はボケとして機能することはなく、その男性への抵抗のなさにオジさんがドギマギするという設定で笑わせるものでした。

「昆虫とか食べれるタイプ?」とか「どっちでもいいって、どっちでもいいってこと?」というパワーワードでちゃんとウケていました。

バイト先の人という設定よりは学校の先生のコントのほうがリアリティ合って自分は笑いやすいです。

◯ななまがり森下

凄いネタでしたね。

ツッコミをお客さんにゆだねる100%ボケのネタで、ザコシショウさんを彷彿とさせました。

ゆっくり乳首を隠しにいくボケで「あ、もう駄目なのがわかる!」とか、「貝殻のブラがある」というフリからの「シジミ」とか、少し予想を裏切る構成にしていたのはさすがだなぁと思いました。

「何やってんだこの人」とか「ていうかなんで乳首隠したいんだ?」とか俯瞰で見て自分なりに突っ込んで笑いに昇華できる人だと楽しめたのかもしれません。

このネタは無観客でよかったなと思いました。確実に女性のお客さんの悲鳴が聞こえてしまいそうなネタだったので、そうなってしまうとほかのお客さんもテレビの前の視聴者も笑っていいモノかどうかわからなくなってしまうので。ちゃんと芸事に造詣のあるスタッフように見えるので、無観客が良い方向に働いているように見えました。

1個思ったのはネタ終わりに「よく勝ち残ってきたな~」とか審査員の人がいじるのは、視聴者投票に影響するのでちょっと良くないなとは思いました。

◯パーパー ほしのディスコ

パーパーさんの普段のありネタのようにも見えました。

「優しいトークテーマ」とか「浮気専用の質問」とかほしのディスコさんなりのワードが好きでした。

プリンを浮気相手が食べてしまうところまではなんとなく予想できてしまったけど、「結局繋がっちゃうんですね~」というセリフは面白かったなと思いました。

◯すゑひろがりず 南條

M-1の「昔言葉芸」をピン芸として、よりポップにした芸。テレビ受けするネタに仕上げてきたなという感じ。

横移動が多くなるネタで、今の世界線に戻るところで笑いが薄くなってしまいそうなところを、顔を袖で隠して移動し「今は消えていると思ってください」と説明しているのが良かったなと思います。その後その移動をするときにクスクスっと笑いが続いていたのでいい構成だなと思いました。

あと最後のドレミネタで大変そうに移動しているのですが、「自分が作ったネタだろ」と思わず吹き出してしまいました。


Cブロック
◯ヒューマン中村

一般人と妖精とのやり取りというファンシーな設定で、主に音声との掛け合いコント。自分は、音声はずっと垂れ流しなのかオペレーターさんが裏にいてスイッチングしているのかが気になってしまって、自然な会話の間になるかなと緊張しながら聞いてしまいました。

もうちょっとフラットに聞いておけばよかったなと後悔しています。

「名人寄席出てるやろ!」「いらん数字言うてくんな!」と前半の伏線をしっかり回収する構成になっているのはさすがだなと思いました。

◯おいでやす小田

ラ行を巻き舌で言うだけの強気のコントですが、設定としてヤクザの親分となったことで一発目の「オラ」でシステムがすぐ伝わってウケやすくなっていましたね。

この人のがなり芸はもう市民権を得てきていますね。怒られている感覚があって委縮してしまうところを、面白いものと変換できるのは強いなぁと思います。

「何を言ってるかわからない」ってやっぱ面白いですね。

後半のQ&Aで畳みかけるところもちゃんとウケていたかなと思います。

今回は、いや今回も、他が強かったなと。

◯ワタリ119

テンパり芸の芸人さんで自分は好きなのですが、しっかり作りこまれた賞レースという点では、あまり期待していませんでした。

かなり裏切られましたし、新しめの面白さだったなと思います。

3分のネタ尺で「119枚のフリップをめくる」というのがもうフリとなっていて、時間をかなり無駄遣いしているところでお客さんが「早くフリップめくれ」となってくるところでウケていたように思います。

特に時間を無駄に使っていることをわかりやすく伝えるために、あえてフリップから離れたりする縦の動きを取り入れていて頭がいいなと思いました。

フリップ芸が始まったところで早く終わってしまう砂時計や、「ワタリーを探せ!」のフリップを大量に処理するボケも「1分半で119枚のフリップをめくる」というフリが効いていたので、お客さんが「早めに処理しようとしているんだな」という理解をしてくれて、それが爆笑に繋がっていたなと思います。

◯大谷健太

フリップ芸ですが、絵から想像していって答え合わせをする前半と、想像させない間で伏線回収をする後半の2大構成になっていて、3分間の使い方が見事だなと思いました。ギリギリあり得るシチュエーションとあり得ないシチュエーションの使い分けもよかったですし、「もふもふ祖父」とか「シャム寒っ!」とか女性にもウケそうなワードもあって万人受けするネタだったなと思います。

あと細かいですが、言い方と声のトーンも笑いやすくて、完ぺきだったかなと思います。

その上で、視聴者票が集まらず、審査員票が集まるという結果だったのが意外でした。前半のフリップを後半で活かす構成だったのが評価されたのかなと思います。


〇総括

ワイドナショーで松本人志さんが「R-1はお客さん無しでもいいのでは」とおっしゃっていましたが、私も全面的に賛成です。

ピン芸によっては一人で処理できないようなネタをされる方もいらっしゃるので、その場合お客さんの反応にゆだねられてしまうわけで。

そうなってしまうと、観覧のお客さんが引いてしまったりして、笑おうと思っていたテレビの前の視聴者も「自分はマイノリティなのか」という感覚に陥ってしまってうまく笑えなくなってしまう悪い効果も生み出してしまうように思えています。

また、観覧のお客さんの前で万が一滑ってしまうと、テレビの前の視聴者も共感性羞恥が働いてしまって「見るのすら辛くなってくる」最悪の状況に陥ってしまいそうなので、自分も観覧のお客さん無しでもう一回見てみたいなという気持ちがあります。

ただ、お客さんの反応をが見ながら芸をされる方もいらっしゃるということなので、どっちが芸人さんファーストなのかをしっかり考える必要はあって少なくとも「外部の人間が議論すべき内容ではないのかな」とも思っています。。

私は今回のR-1は見やすかったです。


あと、コンビと違ってピン芸人の方は物理的にコンビ芸(1つのボケとツッコミのパッケージ)が出来ないので、強めのツッコミでスパッと処理できる人の司会でも見てみたいなと思いました。

蛍原さんは優しく、粗品さんもほぼ先輩という状況で委縮していたように見えたので、小峠さんとかフット後藤さんの司会で見てみたいなと思います。

どちらも「有ジェネ」とか「ウチのガヤ」でうまく若手芸人の方を処理されているように見えるので。あとはMCの仕事が増えつつある、山里さんもキングオブコントの前番組での回しが達者だったのでアリかなと思います。

来年のR-1も無観客にするのか否かの議論はありますが、楽しみにしています。


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