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コウテイが肯定された。

先週日曜日、ABCお笑いグランプリを見た。

優勝はご存じの通り、コウテイ。決勝のネタは圧巻だった。

私が最初にコウテイを知ったのはお笑い好きの友達から「最近コウテイの漫才にはまっててね」という発言から。

お笑い芸人さんのネタ動画を見たりしていた時期だったが、コウテイというコンビの名前は知らなかった。

帰りの電車でネタを見た時の第一印象は「トリッキーで顔が近い」。ギャグ漫才のように見えたのと、フースーヤの既視感も重なってあまり自分には刺さらなかった。

「これがおもしろかったの?」と友人にネタのリンクを飛ばすと、「違うそれじゃなくて」と別のネタ動画を送ってくれた。

そのネタがおもしろかった。バナナマンの爆笑ドラゴンでのネタだったと思う。

下田さんのボケを、ツッコミの九条さんが「いいボケだからもう一回やります」とボケを2回やるくだり、「ウケるか?どうだ」と観客の反応を確認するくだりが、今まで見たことなくて笑ってしまった。よくこんなネタを思いつくな、と。お笑い好きの友達に見せたり、ツイッターのTLに投下したりもした。

若干粗削りな部分も感じていたが、そこもまたクセになった。

その印象が変わったのがytv漫才新人賞 2019「豪邸」のネタ。

「ひげがナイキ」「名前が形容詞」「いっせーので2地蔵」「全部ファ」というパンチもあって見たことないボケと、いっぱい花が咲いている、「どくろの煙」というディテールをちゃんと動きで表現したりというコウテイらしい漫才で、全部のボケがウケていた。

さらには写真を天井に貼っているという伏線を後で回収する技術も見せれば、「A5ランクのカラス肉」というボケに対し「A5のカラスはB2のニワトリ」というボケを引き立てるツッコミもしていた。

「すげえ、強くなってる」

コウテイがM-1決勝の舞台に立つ日も近いなと思った瞬間だった。

衣装がしっかり固まっていたり、平場のトークも上手だったり、若手の芸人さんとはとてもじゃないけど思えず、一回芸人を経験して転生しているんじゃないかというオーラさえまとっているように見えた。

もう一個意外だったのは、ちゃんと悔しがっていたことだった。

そのytv漫才新人賞2019で点数が低かった時、二人のテンションが露骨に下がる。やりたいことをやっているだけに見えていた二人の若者に急に感情移入してしまった。

「あ、勝ちたかったんだ」と、だから全部のボケがハマってたんだ。と。

舞台に何度もかけて、ウケるエッセンスだけを抽出してきたんだろうと。

それからの自分はM-1グランプリの話になると「今年はコウテイが来るよ」と方々で豪語しだした。それくらい自分にとっては衝撃的な一日だった。

ABCグランプリに話を戻す。

コウテイは王道の漫才で、初戦を無難に突破したあと、私も見たことがなかったコントを披露する。

コウテイは「俺らには漫才しかない!」っていう意識のコンビに映っていたので、コントのイメージが沸かず抱いていた不安は、一瞬で吹き飛ぶ結果となった。

パワフルなネタでコウテイは優勝をもぎ取った。
「なんで一回俺になってん!」でちゃんと大きいウケを取っていた。

優勝した瞬間の二人の涙にytv漫才新人賞のあの悔しい表情が重なって、日曜のほのぼのした午後にも関わらず涙腺を刺激されてしまった。

あと、ABCグランプリの中でコウテイがしてきたことが花開く瞬間がある。
得点を聞いている時のかまいたち山内さんとの絡みだ。

コウテイの九条さんが「山内さん、誕生日おめでとうございます」と言って、それに対して山内さんが「だいぶ前です」と返して笑いになるシーン。
一見すると変哲もないやりとりに見えるが、山内さんは九条さんの発言を「ボケ」だと認識して、笑いになる間でツッコむことができているということにコウテイがしてきた全てが詰まっている。
そう、コウテイはどんな舞台でも、どんな相手でも仕掛けるのをやめなかった。
だからこそ山内さんは、「山内さん」と呼び掛けられた時点で「あ、仕掛けてくる」と感づいたのでは無いだろうか。
このコンマ何秒前の身構えによって、山内さんはお笑いの間でツッコむことが出来たように見えた。
コウテイは仕掛けてくるという前提の認識があってこそのコミュニケーションだと感じる瞬間だった。
(もちろん、的確にあしらえた山内さんの技術力あってこそなのだが。)


ABCを見られた方は分かると思うが、コウテイのネタはオーソドックスなものではない。

芸人さんはオーディションや事務所へのネタ見せの機会があって、そういった場でトリッキーなネタは眼につくという話は芸人さんのラジオを聞いて得た情報としてある。

おそらくコウテイは各所で否定され続けた。

「こういうネタをやり続けていいのか」という葛藤は何度もあったと思う。

その中でもコウテイのらしさを突き通し、ようやくコウテイは肯定された。

今年の末、二人が六本木で多くの観客の前で肯定されることを去年以上に強く願っている。



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