M-1グランプリ2021

いやー、毎年毎年「去年より面白かった」と言っている気がします。

今年も初出場が多く、さらには関東勢、非吉本多めというM-1 2015と似たような印象を受けました。モグライダー⇒ランジャタイという香盤は、メイプル超合金⇒馬鹿よ貴方はという香盤とも重なりました。

【1stステージ】

〇モグライダーは歌ネタは点数が伸びないというジンクスを壊した

準々決勝の配信でも権利の関係上音声がカットされていた待望のネタでしたが、モグライダーはトップにはもったいないくらいの出来でした。お互いの人となりが判っていない状況ではありますが、取り扱うテーマとして「さそり座の女」と誰もが知る名曲をチョイスしていたのが良かったですね。

「美川憲一さんって気の毒ですよね」という語気強めのツカミで一気にお客さんの心をひきつけて、「なるほど」と思える設定の説明と、流れも完ぺきなネタだったので、わかりやすく笑いやすいネタだったように思います。

準々決勝で音が無かったという点もネタバレ防止につながっていて、DVD化した時のサイレントを犠牲にしてまでも、来年から歌ネタを引っ提げて挑んでくるコンビも増えそうな気がしてます。

〇ランジャタイ

「ここでくるか~!」と悲嘆の声を上げたのがつい先日のよう。無秩序な漫才でわたしも大好きなランジャタイにしては早かった。(でもたぶん遅くても審査員票は伸びなさそうな気はしてますが。)

例えるならば、前菜でトムヤムクンが出てくるくらいの衝撃で彼らのスパイシーさの後だと、何食べてもトムヤムクンの味が残ってしまうんですよね。それくらいの麻薬であることは、お笑い好きの皆さんならご存じだと思うので、おそらく各地のランジャタイファンも、「ランジャタイの後だけは避けて!」と願っている他のコンビのファンもため息を漏らしていたでしょう。

ネタ自体は奇天烈に見えますが、国崎さんのマイムの表現力が素晴らしく無茶苦茶な設定でも付いてこさせる技術があったり、将棋ロボでかぶせる構成も光っていて4分間を巧みに使いきったという印象でした。

〇ゆにばーす

準々決勝でもかけていたディベートネタで、川瀬名人の議論の穴をはらさんがついていくような展開で笑いをどんどんと増幅させていく緻密に作りこまれたネタでした。漫才サミットANNで審査員をされていた皆さんも話していましたが「M-1の筋肉になっている」という例えが適格かなと思います。

特に「おっぱいをもませるか30万渡すか」という最低の2択にたどり着けるまでの道筋を作るのが丁寧で、「そんな2択を迫ってもおかしくない」という精神状態に追い込まれるように順序立てたネタだったので説得力を持っているように感じた。

ただ、ノンスタイル井上さんもナインティナインANNにて話していた通り、ランジャタイの後というのが影響が出てきていたようには見えました。

〇ハライチ

岩井さんがどうしても決勝でやりたかったと言っていたネタ。世に出るきっかけとなったノリボケ漫才でも、派生して修正無言で澤部さんが狼狽するようなパターンでもない、新たな岩井さんの一面を見れるようなネタでした。ただどこかハライチのターンの掛け合いのような側面もあり、知っている人にとっては通常運転で素の彼らが出せているように見える漫才にも見えました。

敗者復活もすべて見ていたのですが、決して人気で上がってきたというわけではなく澤部さんがただ躍動してどんどん笑いを取っていく漫才で、ネタを書く岩井さんが凄いのはもちろんのこと、そのネタを自分に落とし込んでしっかり自分なりの味付けをするという澤部さんのポテンシャルは他の敗者復活メンバーと比較しても群を抜いているなと感じました。

来年から見れないのが残念ですが、コロナ禍になってからも年に1回単独ライブを打っていらっしゃるので、「獣道」以来2年ぶりの購入を検討しようかなと思いました。

〇真空ジェシカ

昔からお笑い好きの間で「いつ決勝行くんだ」と言われ続けた実力派。今回の漫才もワードがばっちりハマっていて、その中でも言葉遊びとか、ジャイロ回転の例えのしつこいボケとか、駒澤大学の襷とかセットではなく単体でも強いボケも盛り込んでいたので、会場では拍手笑いが多発していたように見えます。

ここは単純に審査員にハマるボケが少なかったと言うだけだと思っています。

一番カッコよかったのはミッキーのくだり。エッジが効いてて面白い麻薬のようなボケに手を出したのにもかかわらず、炎上・反論を完全シャットアウトする完璧な返しでした。

しいて言うなら駒澤の襷のあとのジャイロ回転のくだりが話の流れ的に紐づかなかった感じなんですかね~。大好きなコンビだけに悔しいです。

〇オズワルド

爆発しましたね~。漫才における二人のキャラが3年目もあると浸透してきたからか畠中さんのサイコなボケが上手く笑いに繋がっていたように思います。人の想像しうるツッコミを超えてくる伊藤さんのワードも健在で「これが0か~」というツッコミは畠中さんのボケに合っていました。

今年は単体で強いボケもあったり、「脈図られてる」というボケとツッコミのセットもあったり、完ぺきな出来だったように見えます。

〇ロングコートダディ

動きが大きかったり、間もそれなりに取るどちらかというとコント寄りの漫才で他の漫才とは被っていないところが高得点につながったように思える。

設定自体「ワニになりたい」とぶっ飛んだものであり、兎さんのキャラも伝わっていない怖さはありましたが、カギとなる天界の説明もしっかり出来ていて「しりとり」というメジャーなシステムも組み込んでいたからこそお客さんも付いてこれていたように思います。
特に「しりとり」という制約を設けたことが最大の功績で、「ワニ」→「肉うどん」につな下駄瞬間が大きい笑いにつながっていたように思います。
(このように制約を一個設けると笑いやすくなるのは大喜利ではよくあって、IPPONグランプリのかるたのお題などが代表されます。観客としては自由にボケられるよりも、頭文字が決まっていることがフリになり『「た」から始まるんだ」と準備が出来ることでより笑いやすくなる」現象と似ていると思います)

あと、言い方とかトーンが完ぺきだった「2文字タイム」という意味不明なルールも、すでに観客はそのシステムに魅了されていたからこそ笑う準備も出来ていたように見えたし、こういった展開が終盤まで観客を飽きさせなかったように見えました。
マイクの前から動いてしまったことで点数が伸びなかったのは悔しいですが、ロコディらしい漫才だったように見えました。

〇錦鯉
去年の決勝からメディアへの露出が増えたことで自己紹介が済んだ状態で挑んだことが功を制したように見えました。
「合コン」という設定でしたが、自己紹介が済んでいるので「合コンにまさのりさんが行く」想像まで出来てしまうという臨場感すら生んでいて、まさのりさんのバカに振り切ったボケも刺さる刺さる。
特に「ちょっとお兄さんか」「お父さんだよ」のくだりから「お父さん」すぎる世代間ギャップありまくりのボケの応酬が、話の流れ的にもスムーズだし、「お父さん」が意識付いてしまっているので拍手笑いを産んでいたように思います。
あそこで「お父さん」と意識づけているのといないのとでまたウケは変わってきたように見えました。

〇インディアンス
いかにもインディアンスらしい、話の本線からズレにずれるネタで誰も「怖い動画」というタイトルと聞いてもピンとこない、3次会の会話のように楽しかったけど覚えてない漫才でした。
オズワルド→ロングコートダディ→錦鯉が割とボケとツッコミの間をとる漫才なので、その後でのインディアンスはよりハイテンポに見えるという影響もありましたが、何よりもナイツ塙さんが言うように「漫才が上手いな」と思いました。
あの間の速さでツッコむのが田渕さんのボケを生かすにはちょうど良い感じなのですが、間が早いと少しでもズレた時にウケにくくなるという諸刃の剣になりかねないなーと思える漫才なので、今回はそれがバチッとハマっていたように見えます。

その中でも、中盤で楽天モバイルの伏線を入れ込んでみたり、恐怖心が上京するくだりだったり、最高にカッコよかったのは挨拶に始まり挨拶に終わるところなど、始まってから終わるまでのパッケージとして完成されていて、あの得点になるのも頷けるものでした。
いつかM-1のチャンピオンになると思えました。

〇もも
結成年数も若いながら、独自のフォーマットを完成させ、深夜のネタ番組など徐々にメディア露出を増やしていたコンビ。
かなり前からフォーマットは確立していて、観覧に来るお笑いファンの中でもある程度認知(悪く言うとネタバレ)はされつつあった中で、決勝まで勝ち上がってきたのはお互いの見た目を例え合うシステムを突き詰めてきた証拠。

ずっと同じ台詞回しではなく、「○○顔」としづらい例え文句を「お前ってさ、○○やろ」と別の言い回しをしたり「びっくりした」と感嘆することで、同じようなシステムの中にも緩急を持たせたり細かいところでのテクニックも垣間見えました。
これも少しでも間ができると綻びになるし、噛むことすらも難しい状況に追い込みながらも大きなミスなく完走できたのはネタに向き合ってきた証拠だと思いました。
あと昔と比べると「あからさまに見た目から逸れているボケるためだけの自己紹介」ではなく、「少し有り得そうな自己紹介」に調整しているのも現実味を持たせて笑いやすくするように研鑽してきているなと感じました。

ももの他のネタで、お互い同じテーマなのに「○○顔」で例え合うくだりと、せめるさんが「カードゲームをする」けどそんなに強くない→「勝ち筋見える顔」と見た目にあってるけど、よくよく聞いたら合ってなかったというくだりの二つの件が好きなのですが、まだ決勝では見せていないので来年の決勝で見てみたいなと思いました。

【決勝&総評】

決勝については、明らかに錦鯉が頭一つ抜けて拍手笑いをかっさらっていたように思います。
綺麗な伏線回収も決まっていたので、優勝には納得です。

優勝して涙するまさのりさんだけでなく、審査員の塙さんや富澤さんがつられてしまうところでもらい泣きしてしまいました。
50年諦めてこないで良かったなと思いましたし、自分の人生もまだまだこれからだと奮起させられる瞬間でした。

最初にお二人を知ったのはM-12017でした。
その頃は「ボケとツッコミが強い、オンエアバトル時代の漫才」というオールドスタイルといった印象でしたが、お二人の人柄を知れば知るほどネタがどんどん面白くなっていって、いつの間にかどんなまさのりさんが見れるのか楽しみにしている自分がいました。

これからメディアへの露出が増えていくと思いますが、まさのりさんの人柄が知られれば知られるほどさらにネタが面白くなっていくと思うので、これからの漫才も更に爆笑をかっさらっていくものになると思うとこれからが非常に楽しみです。

50歳、真冬の大冒険。
今年もいろんなことがあり、お互いの顔も知らぬ誰かと誰かがネット上でいがみ合ったり、悲報に触れることも多かったですが、
50年と43年というその人生に勝利の女神が微笑むという、大変だったこの年を素晴らしく締め括れたのではないかと思います。

M-1、最高‼️

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