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王の膝

 ごきげんよう、私は気高き黒い猫。かつては鼠を取るのにも苦労して、やせ細った小さな猫でありました。その汚れた小さな畜生を拾ったのは亡霊も凍えるような古き森の奥にそびえ立つ、廃城の主。人は皆彼を魔王と呼びました。王は私をよく撫で、よく肥やし、よく遊ばしてくださいました。大変お優しい方だったのです。
 ではなぜ魔王などと呼ばれ恐れられているのか。それは私も知りません。魔法が得意だからでしょうか、それとも剣が得意だからでしょうか。分かりません、私には何も。猫は食べて、眠り、遊ぶものですから。
 王の手は烏の羽のように滑らかで鷲のように鋭い爪がございましたが、私はその爪で耳の後ろを掻いてもらえるのが大変好きでした。そして顎の下も掻いていただくのです。そうそう、そこそこ。
 ある日、王の好きな木苺を見つけて私は戻りました。しかし王は一向に受け取ってはくれませぬ。その胸に大きな剣を突き立て眠ったままなので、私は一生懸命その手に木苺を乗せようとしました。それでも木苺は王の手から滑り落ちるので私は諦め、いつも通りに王の膝に乗りました。起きたらきっと木苺を食べてくださるでしょう。ですから私も眠るのです、共に。


──『王の膝』・完

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