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『星の底』

 君は地面が下で空が上だと思っているだろう。でも星の中心はどこだと思う? もちろん地面のずっと下だ。僕たちはそこに吸い付けられて立っている。ならば星における上は地の底にあるんじゃないだろうか?
 西暦を三千年越えたあたり、全ての国家において共通の処刑方が追加された。
星からの追放。
体に特殊な装備を付けて風船のように飛ばされる。最初は綺麗な景色を見ていられるってんで罪人たちは喜ぶ。でも風に流され海を通り過ぎ山を越えて青色が藍色になる頃、彼らは恐怖を覚え始める。急に地上が恋しくなる。でも掴まるものがないから手足をバタバタさせるだけ。涙を流しながら彼らは懺悔をする。酷い事をしたと哭する。被害者や遺族や裁判員はその告白を聞き続け彼らを見届ける。
 藍色の空が黒色に変わる。大気で揺らいでいた星がくっきりとする。星を薄い大気の膜が覆っている。地球から離れて行く体は速くなる一方で身を守るものはない。
 罪人の声は地上に届き続けるが、地上からの音声は彼らには届かない。人工衛星を追い抜き罪人は宇宙空間に達する。大抵、泣き叫ぶか発狂する。彼らの声はそこで途切れる。同時にスーツの中の空気も抜かれる。続きは言うまでもないだろう。
 僕は一人の娘の父親で、男は何人も子供を嬲った。判決は死刑と終身刑を三百五十年。僕ら夫婦はこの処刑方に同意した。そして泣き叫ぶ犯人の声を聞きながら思ったんだ。星の底はどこだろうか?
 君は空が上だと思っているかもしれない。僕は違うと思う。
 虚空は相変わらず僕らの頭上で口を開けている。ぞっとして僕は地面に何度もキスをする。この質量に囚われていることがどれだけ幸せな事か、僕と彼は知っている。


──『星の底』・完

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