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土の遺跡〜花園の騎士(前)〜

前作:『土の遺跡・深』

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 ニルは釣り糸の先を見つめている。楽園は今日も平和そのもの。リアム、サミーと共に湖で釣りをしている。楽園の湖には小魚しかいないので、釣ったところですぐ放してしまうのだが。それにしても此処数日は全く魚が引っかからないのでニルはとうとう飽きてしまった。
「釣れんな」
「釣れないねえ」
「釣れなくても釣りなのさ」
ようやくニルの釣り糸が揺れ、彼は竿を引く。しかし掛かったのは魚ではなく、紙の入った小瓶だった。
「何だ?」
「おや、手紙じゃないか」
「手紙か。誰宛てだろうか?」
「そりゃ、お前宛てだろう」
「俺に? はて……」
コルクを抜き紙を開く。酷くくしゃくしゃの紙、文字は虫がのたうち回ったような状態でどちらが上なのかも良く分からない有様だった。
「何て?」
「……字が乱雑で読めぬ」
「そう言う時は手紙に喋らせるのさ」
「嗚呼、なるほど」
相変わらず魔法と言うのは便利だ。ニルは紙を唇の形に折り、ふっと息を吹きかける。すると手紙はまくし立てた。
「お願いです! これを読んだお方! 誰でも良い、神様でも妖精様でも良い。助けてください! 私はセタ村のカラビと申す者。お願いでございます! 村を襲う蛮族から我々をお救いくだ」
手紙は力尽き地に落ちる。切羽詰まった状態で書かれた物のようだ。ただ事ではない、とニルは手紙を持って女神の元を訪れる。
 女神エアルスは花園で微睡んでいたが、手紙の内容を聞くと顔から笑みを消した。
「水に乗って来た手紙であれば水の女神、お姉様が送って来たのでしょう。すぐ往ってお遣りなさい」
「宜しいですか? ならば支度を」
「ですが、一人で往かぬように。供をつけなさい」
横で聞いていたリアムとサミーが顔を見合わせた後女神たちに微笑む。
「なら俺たちが同行します」
「手紙を受け取った時一緒にいたしな」
「そうか、ありがとう」
 三人は人の若者に化け、厚着をしてフード付きのローブを羽織る。
「おい、まさかこの着の身着のまま行くつもりか? 旅費は? 荷物は?」
「要らないよそんなもの」
「外と楽園じゃ時間の流れが違いすぎるから金を持って行ったって意味がない。どうしてかは知らないけど、人間はコロコロ通貨を変えるからね。だから向こうへ着いたら歌って踊って、そうやって資金を集めるのさ」
「そう。それに金の盃があれば俺たちは飲むものには困らない。そうだろう?」
「そうだけれども……」
お気楽なリアムとサミーをアウステルの背に乗せ、ニルは手綱を引く。女神は森を通して村のすぐ近くへ送り出してくれた。

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