見出し画像

【団体インタビュー07】NPO法人プロジェクト保津川

2022年度からスタートした「団体インタビュー」は、ふるさと清掃運動会に参加していただいている団体や企業に、活動内容やふるさと清掃運動会への想いなどを取材する企画です。
第7回となる今回は、2007年の第1回ふるさと清掃運動会から参加していただいているNPO法人「プロジェクト保津川」代表理事の原田禎夫様を取材しました。柔らかい語り口調でお話しいただいた市民・行政を巻き込んでいく壮大なストーリーに魅了され、約1時間のインタビューはあっという間に時間が進みました。様々な課題に取り組んでいく際のアプローチ方法として参考になる部分が多々あるかと思います。

保津川下り400周年記念イベントがきっかけでスタート

ふるさと清掃運動会事務局(以下:事務局)-
私(山本)もプロジェクト保津川の活動には2020年10月に参加させていただきましたが、最近は足を運べていません。現在の活動について教えてください。

プロジェクト保津川 原田様(以下:プロジェクト保津川)-
保津川周辺の清掃活動を毎月行っています。2023年5月で160回目を迎えます。2007年にNPOを設立して、同年10月のふるさと清掃運動会から活動が始まりました。

事務局-
NPO設立の経緯を教えてください。

プロジェクト保津川-
2006年がきっかけの年です。2006年は保津川下りが始まって400年の年でした。その記念イベントの一つとして、市民や行政も含めた清掃活動が行われ、参加者800人、ごみ回収量2トンくらいの実績がありました。400年記念は一度きりですので、続けないと意味がないということで、地域の皆さんや議員の方々(そのうちの一人は現・亀岡市長)とNPOを設立しました。山形県の最上川における川のごみマップに関する取組みや、オンラインでごみマップを作っていた富士山クラブの取組みを参考に活動を軌道に乗せていきました。

事務局-
プロジェクト保津川の第1回の活動、つまり、2007年10月のふるさと清掃運動会について振り返っていただけますか?

プロジェクト保津川-
王貞治さん(ふるさと清掃運動会実行委員長)のポスターを様々なところに貼りました。すごい影響力でした。プロジェクト保津川第1回の活動でしたが、王さんの力ですんなりと皆さんの間に入っていけた感覚があります。その結果、120人の方々に参加いただきました。

第1回ふるさと清掃運動会の報告集から

事務局-
それ以降はどのくらいの頻度で活動を継続しましたか?

プロジェクト保津川-
毎月活動を実施しました。参加人数が徐々に減ってしまう時期もあり、実施頻度を減らしてもいいのではないかという話もありましたが、佐川急便の所長さん(当時)に「良いことをしているのだから広報にしっかり取り組んだ方が良い」というアドバイスをいただき、かなり早い時期からTwitterやFacebook等の広報に力を入れ始めました。そして少しずつ参加人数が回復していき、最近では少ないときでも30~40人、多いときには100人規模の活動になっています。

毎月開催されている清掃活動では市民や地元企業の方々も多数参加します

ITを通じて世代を超えて会話・対話が生まれ…

事務局-
約15年も活動が継続し、発展していることは素晴らしいことと感じます。様々なことが相まって今があると思いますが、原動力となったものを一つ紹介していただけますか?

プロジェクト保津川-
ごみマップが一つの大きな力になりました。富士山クラブの携帯電話からごみの情報を投稿できるというリアルタイム性と、最上川のごみマップをミックスさせて、アプリを開発しました。地方ではNPOが認知されていない時代で、資金集めに苦労しましたが、TOTOやトヨタ財団の助成金を受けました。TOTOやトヨタを知らない人はいませんので、大企業が支援しているということで、この団体はまともと思ってもらえるというメリットもありました。
システム開発後は自治会にもお願いをし、役員さんと6ヶ月間歩いて調査を実施し、地域ごとにごみマップを作り上げました。GPS機器を持って歩いてもらい、デジカメで写真を撮って、そのデータを活用するという取り組みです。自治会の役員さんは高齢な方も多くて、デジタル機器は難しく感じてしまい、「そんなもん使えへん」みたいなことも言われますが「そう言わんと」みたいなやりとりをすることが大事だと思います。家に機器を持って帰っていただくと「お父ちゃん、おじいちゃん何やってんの?」みたいな会話が家庭内で生まれ、息子さんやお孫さんに話をすることに繋がります。そして腕章をつけ、機器とクリップボードを持ちながら調査していると、「何やってんの?」みたいな近所の方とのコミュニケーションが自然と生まれてきます。このようにしてITを通じて世代を超えて会話・対話が生まれていきます。
また、ごみは意識していないと見えません。定量的に評価することで、自分のところは綺麗と思っていても、他の町内と比較すると汚さが見えてきます。一方できれいなところにも理由があることがわかります。調査により、町内3本の川のうちの真ん中の1本の川にごみが集中していることが分かりました。始めのうちは、2トントラック+軽トラックくらいのものすごい量のごみを回収しましたが、何回もやっていると減ってきて、今ではせいぜい10袋くらいになりました。
そして、地域での活動が盛んになってくると行政も放っておけなくなり協力してくれるという好循環が生まれます。

市民の方がごみマップ調査を行なっている様子(プロジェクト保津川HPより)

ごみマップ作成から清掃活動、そして政策にも繋げていく

事務局-
亀岡市の取組みの一部を紹介していただけますか?

プロジェクト保津川-
市役所でエコウォーカーという制度を作ってくれました。散歩がてらごみを拾うというもので、現在1,500人ほど登録していると思います。登録するとボランティア保険を市がかけてくれて、お揃いのトングやマイボトルを配ってくれます。街中でごみ拾いをしてくれている人を見かけると、名前も知らないけれど、顔は知っている“ごみ拾い仲間”みたいなのができます。トングを入れるおしゃれな袋を作ってSNSにアップロードしている人もいます。

プロジェクト保津川立ち上げのときから携わってくださっている現在の亀岡市長が環境政策に力を入れていて、プラ袋廃止を打ち出しました。反対の声は当然ありましたが、市民の方が早期試行の要望書を出してくれました。ごみマップを一緒に作成した自治会の役員たちが呼びかけてくれて、市内54の団体等が賛同してくれて、要望書を提出できました。単にごみを調べることから、清掃活動に繋がり、それを政策として進めるというところにまで繋がっていきました。自慢していいかなと思っています。

データに基づいた活動で市民と一緒に考えていく

事務局-
取組みを進めていくうえで大事にしていることを教えていただけますか?

プロジェクト保津川-
「データに基づいて活動すること」です。プラ袋のごみがほとんど見られなくなった今、データに基づいたマイボトルの普及活動をしています。どこまでやっても反対する方々はいますが、しっかりデータに基づいてやっていくことが大事だと思います。そのきっかけを与えてもらったのが富士山や最上川の取組みです。単にごみ拾いしているだけではなく、ごみマップを作って、可視化することで地域の皆さんに問題が共有されます。調査を特定の関心ある団体や研究者、行政だけで実施しても「ああそうですか」で終わってしまう可能性があります。市民と一緒にデータを集めることで、市民ももっといろいろと考えてくれる、それがすごく大事なことです。

亀岡市の政策実現プロセスは他の自治体の参考になる

事務局-
今後どのような社会になっていくと良いと思いますか?

プロジェクト保津川-
イギリスにいると社会課題の解決が個人だけの責任じゃない、社会に問題があるという発想があると感じるのではないでしょうか(注:事務局の聞き手の一人は英国在住)。ポイ捨てはだめということだけでなく、良いことをしたら得する、悪い事したら損するという社会の制度を作り、個人の自己責任にしない仕組みが必要ではないでしょうか。ごみ拾いだけでは限界があり、行政に訴えて、レジ袋廃止などの政策に繋げるといった亀岡市が実現したプロセスは他の政策にも応用できると思います。このようなことを経験した行政と、経験していない行政の間には差ができていくと思います。

資金&代替わりという課題にも取り組んでいく

事務局-
活動を進めていくうえで課題に感じることを教えてください。

プロジェクト保津川-
1つ目は資金の問題です。京都府の補助金がベースになっていましたが、3年縛りになってしまったこともあり、4年目で今年からもらえなくなりました。ただし、いつまでもそれには頼れないので、自分たちでも稼げるように物販事業を来年度から始めようと思っています。自己資金の充実は、どこの組織でも大きな課題だと思います。

2つ目は、代替わりです。今年で私自身は48歳になりますが、60代近くになって突然慌ててもダメなので、お金だけでなく、改めて若い世代に活動を広げるということです。単にボランティアに参加するだけでなく、運営を担ってくれる人をどうしたら増やせるかが鍵です。

ふるさと清掃運動会への3つの提案

事務局-
第1回ふるさと清掃運動会からご参加いただいているプロジェクト保津川さまから、ふるさと清掃運動会に期待することをお伺いしたいです。

プロジェクト保津川-
ここ数年で、ふるさと清掃運動会は参加可能な日程を広めにとって、参加しやすくなったとは思いますが、連帯感が薄くなってしまった印象があります。9月にワールドクリーンアップデイ(エストニア発祥)というのがあり、統一活動日が決まっていて、その前後ももちろんOKということにしています。コアとなる日が明確にあると分かりやすいのではないかと思います。

現在はSDGsなどが盛んに叫ばれていて、企業の皆さんが参加するところを探しているので、ふるさと清掃運動会は窓口になり得ると思います。人の参加だけではなく、お金で応援する仕組みを作るのも面白いのではないでしょうか。クラウドファンディング的な機能をふるさと清掃運動会に持たせて、会社から寄付を通じて、1割はふるさと清掃運動会を続けるために、残りは地域団体を支援する基金みたいなものがあれば面白く、企業の参加が継続するのではないでしょうか。

また、今の学生は子供のときからSDGsを学んでいて、そのような世代にとっては意識のギャップがあるのではないでしょうか。日本の企業でグローバルなビジネスをしている企業と話をすると、欧米で受け入れられる環境商品が日本では売れないという話を聞きます。日本の消費者が変わる必要があるという意識を持っています。そこを乗り越えるのは体験しかありません。その一つのプラットフォームにふるさと清掃運動会はなり得るのではないでしょうか。

事務局-
自分たちが気付けていないふるさと清掃運動会の可能性についても言及していただきましてありがとうございます! 私たちができることはたくさんありそうです。

2022年度のふるさと清掃運動会集中月間にもご参加いただきました!(プロジェクト保津川HPより)

保津川での活動が拡がっていってほしい

事務局-
最後にプロジェクト保津川さまにとっての「ふるさと」を教えてください。

プロジェクト保津川-
「保津川」です。国の統一した名称は桂川であり、保津川というのは亀岡市の下流側半分の呼び名です。地域によって呼び名が変わるということは、それだけ地域生活に近い川だったということです。例えば四万十川は、もともと別の名前でしたが、テレビのおかげで有名になり四万十川という統一呼称になりました。桂川も淀川も保津川になるような(笑)、それくらい活動が地元にも根差して、上流・下流に広がっていって欲しいと思っています。

事務局-
川のゴミ拾いにとどまらず、市民・行政とも連携して好循環を生み出していくプロジェクト保津川の活動と原田様のエネルギーに魅了されました。今年は是非現場を訪問したいと思います。

筏復活プロジェクト(プロジェクト保津川HPより)

HPも是非ご参照ください!

毎月の活動の告知などアップされていますので是非ご覧ください。
プロジェクト保津川HP:https://hozugawa.org/

【取材】
2023年1月21日
プロジェクト保津川:原田様
事務局:山本・野口


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?