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その数分前ボイス/あなたを庇うボイス

普段の愛園さんを連想させるセンシティブな印象とは違う〝演じる愛園さん〟の一面は自然体でとても魅力的です。

以下、ネタバレを含みます。苦手な方はご注意下さい。

演技力向上委員会


その数分前ボイス


酒を飲み酔いが覚めているのか記憶も不確かな中、冷静に状況を考察する人物像を最終盤の手前の〝冷静〟という台詞が出るより先に〝俺〟が〝冷静〟である様子が伝わってきました。
刺される事で生じた研ぎ澄まされた感覚が奥の方でずっとこちら側を見つめているようでした。

〝胸が焼けるみたいに痛い〟の解釈と説得力は何度聴いても腑に落ちて好きです。その後の頭が痛みを理解するより先に体が刺された痛みに反応して動揺していく心の動きはとてもよきでした。

寝ている友人に自身が刺された事に気付くまでの流れでは、一緒に酒を飲む仲でありながら刺してきた友人への接し方に〝この2人の間にはどのような友人関係、距離感だったのか〟が一瞬だけ見え、逃れよう無い現実から解れたような心の脱力が伝わるようでした。

この脱力した一瞬の呼吸に既に友人関係が取り返しの付かないところまで来てしまったという、何とも言えない湿り気のある不穏な空間が作り上げられていたように思います。

死を実感するレセプションから溢れてくる幾重の感情のリアクションを丁寧に削ぎ落とし、一連の台詞が心の描写なのだと分かる芝居の連続によって視聴する側の視点が鮮明になり、何を伝えたいのかどう感じ取って欲しいのかという演者の努力を垣間見ました。

最後の台詞には助けが来ない悲痛さと助けは来ない残酷さがあり、自然と心の中に落ちていく瑞々しいよき芝居でした。

あなたを庇うボイス


愛園さんの演じる〝私〟の顔色が明らかに変わる瞬間にぐっと来ました。声から始まり映像として観れる芝居、ぐっと来ます。

声色から感じる身体的動作や仕草はとても的確で今までの愛園さんのボイスの良さがありました。映像になる声の演技はボイスドラマの想像させる楽しさそのものでとてもよきです。

事の顛末に動揺している友人に対する接し方では〝この2人の間にはどのような友人関係、距離感だったのか〟を青ざめた心境が微かに聞こえるような声色の揺れから察しられて差し迫る異質さを感じました。

台詞にある〝キモかった〟を発する心と言葉の辻褄。「死んでた友人」「数分前ボイスの人」との整合性を漂わせるところでは〝私〟という人物設定が効果的に生きていてとても良かった。〝私〟の言葉に〝3者の関係性が朧げに見えてくる〟感覚には演劇の良さを感じました。

自分は味方だよと言わんばかりに殺人を犯した友人を宥めるさじ加減や終始明るい声色で話しながらも咄嗟の長考の塩梅、芝居の間合いと呼吸には払拭されない薄暗さを残していて良かったです。

恐怖と動揺の中に心の穏やかさがほんの少し顔を覗かせるような演技描写には、目の当たりにしている凄惨さに何も考えられない混乱と空白が伝わってきました。

最後の台詞を発し終えた後にも、穏やかさの内側に己の感情を押し殺すようなじわじわと躙り寄るその先の怖さが見えとてもリアルでした。

終わりに


愛園さんの演じる感情の余白や呼吸、間合いの使い方は音には乗らない視聴している側との対話が感じられてとてもよきです。
演じ手の考え方を視聴している観客に想像させる時間と考える余白を与える台詞の間合いや呼吸があります。

2つの作品を視聴し終わった後、有意義なよき時間を過ごせた充実がありました。数分前の人と庇う人、どちらも参加されていたからこそ気付く、演技芝居に取り組む愛園さんの魅力がありました。

企画参加とよき演技芝居をありがとう御座いました。

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