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『旧市町村日誌』13 道のその先 文・写真 仁科勝介(かつお)

7/13(木)晴れ

 しまった。7月9日から12日の間に、日記が書けていない。かなり、くたびれてしまっていたものと思われる。けれど今、どうして日記が書けているのか。それは、気仙沼のアンカーコーヒーさんで、生ブルーベリーミルクを飲んでいるからである!

 それにしてもこの4日間。大崎市から石巻市、そして、気仙沼市まで、何度雨に降られたかわからない。合羽を干す日常。それでも宮城県の旅を終えることができて、ホッとしている。

 いつも何度でも思うことだが、生きているうちに47都道府県をすべて巡る必要はない。ましてや、すべての市町村なんて巡らなくていいし、旧市町村はその最果てレベルに不必要だ。

 しかし、たとえ無意味な旅だとしても、それでいいとも思える。この海は泳いだ方がいいと感じる。そうした感覚を言葉にできたらいいのだが、今は足の付かない海だから、手足を動かすことで精一杯だ。島はあるだろうか。どんな島に、上陸するだろうか。

 

昨日、気仙沼にやって来た。ぼくにとってははじまりのような地だ。まだ大学生で、何も知らなかった自分に新しい世界を教えてくれたほぼ日さんと、気仙沼の方々と、最初に出会った土地だから。

 「新しく出会う」は、いつもどんなときも、誰にとってもすぐにそばある。そこにその人なりのストーリーが生まれて、道はひらかれていく。その出会いが正解かどうかは、一旦いい。出会いの先で、自分がどう進んだか次第だ。3年ぶりの気仙沼で思う。まずは3年分、歩いたってこと。

 

7/14(金)晴れのち曇り

 舞台は岩手県に移った。訪れる旧市町村の数はやや少ないが、面積も広く、移動に時間がかかることを考慮しよう。また、旅をストップさせて別の土地に行く機会もあるので、動けるときに進んで行こう。

 立ち寄った陸前高田市の泊まれる古本屋『山猫堂』で、吉野源三郎[森岡1] の『君たちはどう生きるか』を見つけて買った。映画のタイトルはこの本からきている。そして、公開日は“今日”である。ぼくはずっと、何週間も今日を待ち焦がれていた。初日に観に行きたかった。でも、今いる場所に映画館はないので、それは無理だった。

 しかし、このタイミングで、この本と偶然出会うとは。山猫堂さんに立ち寄ったことも、偶然だったから。

 気仙沼でも、いろいろな偶然が、素晴らしいご縁を導いてくれた。それらだって正直、偶然とは思えないぐらいだった。とにかく、一日一日をがんばるしかない。

 

7/15(土)一日雨

 朝から晩までずっと雨だったが、旅を進めた。今日は進めるべきだ、進めなければならないという気持ちだった。一関市のまちを8つ巡って、最後は北上市まで、200km走った。

 そして、ナイトショーで『君たちはどう生きるか』を観た。公開二日目だ。昨日の公開日は、吉野源三郎の原作と出会った日だった。今日は、旅を始めて100日目の日だった。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。

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