見出し画像

083話:雨の時に靴内部で何が起こるか?

雨や雪などで、革靴のアッパーに浸水すると、革の栄養分である油分が抜け破損の原因になります。今回は「なぜ油分が抜けていくのか?」そのメカニズムを解説していきます。

革に含まれるモノ:

水分・油分・タンニンやクロムなどの鞣し成分。コラーゲン繊維。そちらに加えて、実はあるモノが含まれています。

それは・・・界面活性剤

コイツが油分が抜けていくために作用します。

界面活性剤とは:

水と油のように互いに混ざり合わない物質でも、白濁して均一になる(分離しない)ようにさせるために、使用する薬剤。この白濁した液体をエマルションといい、これの作用を乳化といいます。(wikipediaより

なぜ界面活性剤が革に含まれているのか?:

界面活性剤があるから、油分が革から抜けるなら革を鞣すときに使わなければいいじゃん!・・・という声も聞こえてきそうですが、これが革製造時に良い働きをします。

ポイントは油分を革に加える時。。通常、革にオイルを直接入れ込むと均一に入らずに、場所によっては過度もしくは不足します。また数百枚と生産する場合に品質が安定しません。

ですので、水と脂を界面活性剤で乳化させてから革内部に染み込ませます。そうすることが乾燥後も革繊維にオイル分を沈着させ潤滑効果による革内部の繊維同士の滑りの向上、柔軟性が加わるということ。

陰イオン加脂剤:

陰イオン性の活性剤と疎水性の中性油からなる乳化加脂液。陰イオン性油として、動植物油や合成油などの硫酸化油、スルホン化油、亜硫酸化油、リン酸化油などを使用した中性油を内包するエマルションであり、最も一般的な加脂剤である。
回転するドラム中で加脂剤を鞣し革とともに撹拌することによって、エマルションは革繊維内部に浸透する。加脂工程の後半において、酸の添加などによって革の組織内でエマルションが破壊されると、陰イオン性の界面活性成分(乳化剤)が革繊維表面の陽イオン性部分と結合する。そのために繊維表面は活性剤成分のアルキル鎖でおおわれてある程度疎水化されるので、疎水性の被乳化油成分(中性油)が繊維表面に沈着する場所を提供する。その結果、中性油の潤滑効果による繊維同士の滑りの向上、及び疎水化で繊維同士の密着が防止されて加脂効果が発揮される。通常、加脂液中の油剤成分はすべて革に吸収される。

実際に確かめてみた:

界面活性剤が革に含まれているかどうか試してみました。

1)革で出汁をとります。

2)ただの水と、冷ました革の出汁に5mlのオリーブオイルを加えます。

こんな感じで

3)撹拌してから、それぞれ5分待つ

4)結果

左側:水とオリーブ油 
 全体で5mm程度オリーブオイルの層がみられます。

右側:革の出汁とオリーブ油
 全体で4mm弱程度のオリーブオイルの層。また出汁は透明でしたが、オリーブオイルと撹拌すると濁ってきていて、このことがオリーブオイルの一部を乳化していると見て取れます。


雨のときに革の中でどんな現象が起こっているか?:

雨や雪の日、革の中にたくさんの水分が入り込みます。そうすると革の中で起こること・・・・。

それは再乳化です

革内部に残る界面活性剤が、革内部の油分と入ってきた水分を乳化させます。革をなめす時は油分を浸透させるために、界面活性剤を使いましたが、こんどは革内部から油分が外に出る方向で界面活性剤が作用します。

乳化した分、水分が抜けるのと同時に、油分も外に流れます。

一回あたりに失われる油分は知れていますが、何度も続くと、段々と油分がなくなり、枯渇していくわけですね。

アッパーから油分がなくなるとどうなるのか?:

硬くなります。カサカサになります。
革というのは、動物のコラーゲン繊維の集合体からなる天然の織物です。その中で油分は繊維同士がこすれたり衝撃が加わるのを抑える働きがあります。例えてみれば、機械のギアにオイルを注すのと同じような役割。

その油分が革からなくなったら、オイルが切れたエンジンと同じく、歯車(革繊維)が破損して、ひび割れたり、ひどい場合には破断します。

油分をなくさないため雨天時はどう対応すればいいか?:

いくつか方法はあります。

1)オイルを十分すぎるほど充填した革の靴を履く

俗に言うオイルレザー、たとえばクロムエクセルや、プルアップオイルレザーであれば、油分が8−9%程度叩き込んでおり(一般の革は3%)、なんども雨に降られてもそう簡単に油分は枯渇しないので大丈夫です。

2)防水スプレーをきっちりかける

油分流失を避けるには、再乳化を起こさせる水分が革内部に過度に侵入しないようバリアを張れば、そもそも起きにくくなりますね。

3)雨に降られた後の靴クリーム

靴クリームで手入れすれば、雨で抜けた油分くらいは補えます。確実に行いましょう。ただし、靴の上の方やトゥなど光りが目立つ箇所はよく手入れ出来ていて、底周りや縫い目にクリーム塗布するのが適当になって破断している例が散見されます。(私も過去にやってしまいました。VASSはそれでお亡くなりになった苦い過去があります)

まとめ:

・革には界面活性剤が残留しています

・界面活性剤は水と油分を乳化させます

・油分は革を柔らかく長持ちさせるのに必要不可欠

・界面活性剤は雨の時に革内部の水分と油分を再乳化させることで、油分を革の外に水分と一緒に排出させます。

・対処法は3つ。オイルレザーにする、防水スプレー、雨後のクリーム


如何だったでしょうか。。雨というと革靴にとって憂鬱に思えますが、そのメカニズムもわかれば、そうストレスに感じずにすみますよね。

雨でも晴れの日でも、お持ちの革靴とよい関係を紡いでいただけたら嬉しいです😊

ZinRyuのツイッターはこちら。

気軽にカジュアルに履く方も作る方も革靴を楽しんでいただきたいので、有益な靴や革の情報を基本的には無償で公開していきたいと思います。 皆様のスキやサポートのおかげもあり、何とか続けてこれました。今後とも応援していただければ嬉しいです!何卒よろしくお願い致します!