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036話:黒桟革という革2(制作側の視点から)

黒桟革の凄いところは、外面より内面です。綺麗な革はたくさんあるけど、中身まで煌めいている革は殆どない。

世の多くの方が、その唯一無二の煌めきに魅了されます。私もそのような表情が大好きなのですが、製作者としては別のところにも感じています。

黒桟革の凄いところ:

実際に靴にしてみました。

黒桟革(型押しの方)って、丈夫な漆が靴内部にしっかり浸透しているせいか一見パリっとしたコシがあって硬質な印象を受けます。

履きこんでみましたが、動くべきところは柔らかくなり、支えるべきところは適度なコシを保つ。悪天候にも耐え、適切な手入れをするほどに、その輝きが冴えてくる。

漆の特性:

輪島塗のような本漆漆器を長く使ったことがある方は実感されているとは思いますが、漆は2つの要素でエイジングします。

一つは時間が経てば経つほどに輝きが冴えること。

これは、使い込めばツヤが増すというような、革靴でよく見られる現象ではなくて、本当に何もせず黒桟革を保管しておくだけで、漆の輝きが増してきます。

もう一つは、水に磨かれて輝きが冴えること。

毎日、お味噌汁をいただいて、洗っているお椀なのに、10年経て新品時より明らかに増している輝き。この特性は、靴に特に適しています。私もこのように雪の日にも雨の日にも日々履いています。

使い込んだら:

こうなります。1週間に2回を1年間着用した例。

以上により、綺麗事なのですが、外見より革質の内面に魅了されたというのが正直なところです。

手入れは?

使い始めた当初、保革のために、漆にオイルとロウが含まれたクリームを塗布すると輝きを殺してしまうのではないか、黒桟革の内面を殺さないか。いろいろと葛藤したものでした。

でも、3年ほど試行錯誤した結果、普通のサフィールとかの靴クリームで大丈夫です。漆は油やロウに負けるほどヤワではありませんでした。

戦国時代の鎧に使われた革で合戦で斬り合い、血脂を浴びても輝きを増して、受け継がれていったのですから、よくよく考えれば当たり前のことでした。

あ、ただ乾拭きはいつもより念入りにやった方がいいと思います。革に良い悪いではなく、漆に重なったロウを抑え、漆の輝きを引き立たせるために。

最後に黒桟革を使う職人にひとこと:

黒桟革は素晴らしい革です。本当に、それについては異論はないと思っています。ただ、黒桟革が素晴らしい=あなたの作品が素晴らしいのではない。黒桟革の素晴らしさは、坂本弘さんと美記子さんご夫妻が作り上げてきた一つの価値であって、我々が作り出した価値ではない

我々は、その素材の特性を理解し、どのように活かして、作ったモノを使うひとに届けるのか。そこに価値を作っていかなければならないと思うのです。単に、「今まで作ってみた作品を黒桟革にしました」から一歩進んで、我々なりに黒桟革だからできる魅力を、より引き出していきませんか?

黒桟革のHPはこちら。

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